1-10 物言い
伝令は、大声で叫ぶ。
”石川様、三千の兵を率いてご着陣”
為信も慌ててしまい、眠気など覚めてしまった。家来衆総出で迎える。
石川高信公……老齢ではあるが、いまだ衰えを見せず。長いあご髭を蓄え、古代中国の関羽を思わせる。
陣中に彼は家来を引きつれ入ってくる。為信は上座を差し出し、下に頭をさげる。高信は“うむ”と相槌をし、席に座る。周りの者らに眼を光らせた。
高信はとてつもなく低い声で問う。
「戦況は。」
森岡が答える。
「はい。つい先ほど和が成り、一揆勢は今夜中に引き上げます。」
“おおっ”と高信の引き連れてきた者らは驚きの声をあげた。ただしそれを遮って高信は言った。
「これですべてが済むと思うか。」
“……一度、反旗を翻した者は二度三度とやるものだ。そうであれば、今をもって平らげるのがいいのではないか”
為信は呆然とした。……いや、呆然としてはいられない。口を開こうとするが、森岡はだまって首を振る。だが高信は為信に気付いてしまった。
「何かあるのか。話してみろ。」
鼓動は激しさを増す。……いやまて、早口になるな。なるな、なるなよ・・・。
「……信なくば立たず。……私は民と約束したのです。ここで不意打ちをかければ我らの信用を失うばかりか、引いては南部の今後に響きかねませぬ。……どうかご容赦を。」
……よし、落ち着いて言えた。
高信は彼を凝視する。その鷹のような鋭い目、為信は抗うことのできないネズミ一匹。
「……わしも考えているぞ。相川西野の乱が平定されたばかり、そして今度の事。聖域とて、徹底的にやるべきかと思ったがな。珍しい奴。」
“わしに意見するとはのう……。よい、大浦の領内での事だ。引き上げよう。”
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます