1-9 和合
「安心せい。理右衛門の金は、参加した者ら全てに平等に配る。約束だ。これで皆、ひもじい思いをせずにすむな。」
そう万次は言うと、腹の底から大きく笑った。
……正直、甘く見ていた。後悔もしている。他国者と在来の民の対話など……できるものか。為信がそう思っていると、面松斎は小声で言ってくる。
「他国者とて、悪い人間ばかりではありませぬぞ。」
……そうだ。そうだった。ここにいる。……それにここには他国者だけではない、在来の民でも同じように振る舞うやつもいる。荒れた奴らが他国者に多いだけ。
戦国の梟雄 “津軽為信” になるのは、もう少し先である。
為信は途中まで面松斎と山を下り、そこからは雪しかない原野を進む。次第に雲は薄くなり、日が差してきた。雪もやんだ。地面が、輝く。
陣に戻る。白い幕を手で上に除け、兵士らの中に入る。家来衆とは違い、兵士たちは為信の帰還を素直に喜んでくれた。どうあれ、我らの殿さまであろうから。
為信は気を取り直し、大声で叫んだ。
「和は成った。一揆勢は今夜中に引き上げる。」
兵士らは歓声をあげた。早く帰りたい一心だった彼らは、為信の快挙に喜んだ。誰も、こんな寒い中外にいたくない。
千人のその雄叫びは、家来衆をも驚かせた。森岡などはたいそう悔しがり、“一揆勢は嘘をついて、こちらを油断させようとしていないか。”と勘繰る始末。
為信の大浦軍は、今夜は付陣したままとし、明日の朝に岩木山の大寺を接収。確認が取れ次第、引き返す運びとなった。
しかし……異変が起きたのは夜。兵士らがうとうととし始めたころである。
大浦軍を遥かに凌ぐ人影が、東南より近づく。……あれは一揆勢か。
……いや違う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます