1-7 嘲笑
為信は家来たちに頼む。
「なあ……ここは私に説得に行かせてもらえないか。」
家来たちは互いに顔を見合わせ、口々に馬鹿にしている声が漏れる。森岡はその癇癪を押さえつつ、荒れた肌の面を引きつらせながら、為信をまじまじと見た。“はあっ”とため息をつき、"何を申している、この若造が"と言わんばかりである。
「説得に応じて、引き上げるような輩には見えませんがね……。」
為信は続けた。
「私に、秘策がある。」
なるべく自信があるように言葉を発したが、森岡は一笑にふす。
「あなたは大切な御身……鼎丸様がお育ちになるまでは、大浦家のお殿様でなければならぬのですぞ。」
“そのようなお方が単身で乗り込むなど……意識を欠けているのではありませぬか。”
同じく周りの家来たちも続けた。
……ここで森岡は考えた。……ひとつ試しに、やらせてみようかと。
「まあしかしですな……これも経験のうち。行ってみなされ。」
“もし戻ってこなくても……幼主鼎丸様を周りの家来で盛り立てますゆえ。ご安心ください。”
為信の心は、煮えたぎっていた。森岡はわざと聞こえるか聞こえないかの小声でこのように挑発してきた。……ここで腹を立てて争いをおかしてみろ。説得どころではなくなる。
為信はなるべく落ち着いたふりをして家来衆と別れた。
広い原野にでる。一面の白き世界。その先に杉の山が座す。ところどころ生粋の色が見え隠れしている。
一人、歩く。付き添いの者もつけられず、ただ孤独であった。ここで死んでくれればいいのにと思っている者もいよう。・・・絶対に、成しえて帰るのだ。
向こう側から、一人が馬に乗ってやってくる。……面松斎だ。
為信の顔は、どうなっていただろうか。
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