岩木山、雪の陣
1-6 山門陥落
……冬は眠りの季節。じっと春を待つ。
そんな悠長なことを、民は言っていられない。秋の収穫はめっぽう少なく、さらには相川西野の乱による兵糧徴収。在来の民にとっても過酷だった。
為信は家来衆に蔵から兵糧米を施そうと幾度となく訴えたが、願いかなわず。次の戦に備えてとっておかねばならぬと、煙たがられる始末。
民を苦しめておいて何が戦だと心の中は煮えたぎっていたが、無理やり抑え込んで平静を保つように努めるしかなかった。
“偽一揆”は、雪が降りやんだ日に決行された。その日は偶然にも正月であった。万次は他国者だけでなく仲間内の荒れ狂うものも集めたので、為信が想像していた人数よりも多かった。その数、三百人。
万次らの寺に近づく音は、降り積もった雪でまったく聞こえない。聞こえていたとしても正月である。法師らは酒や女に夢中で、外に何があろうとも気が付かない。
……このような寺であるので、正月に訪れる庶民などいない。
一揆勢はそのまま山門に突入。大勢の仲間が門に体当たりすると、屋根に積もっている雪が音を立てて下に落ちる。中の者はそれで目を覚ます。ぼんやりしているうちに、門は解き放たれた。あくまで抵抗しようとする者もいたが……呑んだくれの力は皆無。生き残った山法師らは仏殿で縄にかけられ、荒れ狂う者らの苛めに使われた。
解放された女らもまた、餌食となった。
山の異変に気付いた民の中には、本物の一揆だと勘違いをして参加をする者も多く、併せて四百人の規模となる。
……岩木山は大浦城より西側。大浦家の領内である。一揆勢を鎮圧するため、為信を総大将とする総勢千人の兵が岩木山山麓の百沢に着陣。ただし、実質的な指揮権は家来の森岡が持った。彼は大浦家の古参であり、老練な戦上手だ。
森岡は言う。
「低い方から高い方に攻め入るのは難しい。山であればこちらより雪深く足をとられる。ならばこのまま留まり、相手の兵糧が切れるのを待つのがいい。」
しかし兵にとっても、このまま付陣し続けるのはつらい。いつしか雪も降ってきた。どれだけ松明で暖まろうが、早く終わらしたいのに代わりない。
だが森岡の言う事は、勝つためには正しい。敵は屋根の下で寒さに強いが、いずれ兵糧は切れる。こちらは城から送ってもらえばいい。加えてあちらは聖域。なるべく血を流すのは避けたい。
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