第34話 女。母さんを隔離。

 今朝の朝ご飯を作るのは私の当番だ。

 母さんと交代で作ることにした。食器の洗い物は智がしてくれる。

 うふふ、優しい旦那様。


 今朝は、初めてのカマドでの調理。

 昨日ママ友さん達から詳しい使い方を教わった。

 初めての経験なので早めに起きた。

 外は薄暗い。電気はここには無く、家での照明はローソクと行灯だけだから、思っていたよりも暗い。


 コンピュータを動かす電気は風力発電と太陽光発電、そして水力発電から来ている。

 しかし、これらは小型なので発電能力が極端に低く、コンピュータを動かす建物だけに使っている。発電機は生産されてなくて、昔からある在庫だけを使って発電している。予備はあるみたいだけれども、将来の為に使わないと聞かされた。


 さてと、薄暗い中、まずは火を起こさなくてはならない。

 教わったやり方でやっても、なかなか火がつかなかったけれど、やっと火がついた。

 これで朝ご飯の支度が出来る。

 ご飯に、焼き魚、それとお味噌汁を作った。

 昨日の残り物を頂いたので、それも朝食に出した。

 朝にしてはちょっと豪華な食卓になった。


 残り物の納豆も頂いた。


 健康に良いと言っていたので智に食べてもらいたかった。

 彼の反応も少しだけ興味がある。


 朝ごはんになって、彼は抵抗もなく納豆を食べている。


 しかも、予想を大きく超えて、これは美味しいねって言ってお代わりをした。


 意外だった。


 ふと、ママ友さんが言っていた納豆の優しい食べ方を思い出した。

 卵かけご飯に納豆を混ぜると匂いが気にならなくて美味しく頂けると。

 早速その様にして納豆を食べたら、匂いが気にならずに、本当に美味しく食べれた。


 さて、朝から美味しいものを食べたし、今日から初出勤。頑張るぞー。


「やったー。これで全勝」

「あーあ。美貴とお母さんに負けたよ。予想はしていたけれども、現実を突きつけられると少なからずショックを受けたよ」

「智、気にしないの。今回はハッカーとしての能力だけだから、ね」


 智の提案で、ハッカーの能力が優れた者がリーダーに相応しいと言った。

 私がそれならば、総当たりで戦った結果最も成績のいい人がなるべきではと提案したら、あっさりと意見が通った。

 戦った結果、私だけが全勝してリーダーに選出された。

 リーダーといってもほとんどが話し合いで決めるので、気楽にしてくださいと佐藤さんが言ったけども、やはり気が引き締まる思いがした。

 1週間が過ぎたある日、私は家の留守番で道夫の子守と家事をしていた。

 お昼過ぎに働いているはずの母さんが帰って来た。


「母さん、どうしたの」

「少し頭が痛くてね。今日は早く帰らせてもらったの」

「珍しいね。母さんが頭痛で仕事から帰るのは。もしかして、初めて」

「はっきりと覚えていないけど、初めての気がする。悪いけど美貴、私の寝る準備お願い。どうも調子が良くなくて」


 私は母さんの寝る準備をした。

 もしかして熱があるのではと、おでこに手を当てた。

 やはり予想通り熱があった。母さんをよこに寝かせて、頭を冷やすことにした。冷やすといっても、冷たい井戸水をタオルに含ませて絞るだけ。

 でも、母さんは気持ちがいいと言ってくれた。


「どう母さん。少しは良くなった」

「さっきよりは楽だけれども、頭痛があまり良くならないね。システム内には頭痛薬のいいのがあるんだけどね」

「しかたないよ母さん。ここは全く別の世界。大昔の世界にいるみたいだよね」

「母さん、お昼のお弁当は食べれたの」

「少ししか食べれなかったよ。美貴がせっかく作ってくれたのにね」

「いいのよ母さん。あ、道夫、それはバーバの。バーバ、頭がイタイ、イタイだからね、冷やしているのよ」

「バーバ、イタイ」

「そうよ。ここが、イタイイタイよ」

「イタイ、イタイ」

「あらら、イタイイタイを覚えちゃたわ。最近言葉を教えたらすぐに覚えてしまう。それを何回も繰り返して」

「美貴の小さい頃と同じだよ。何回も何回繰り返していたよ」

「道夫が何回も繰り返さない内に、向こうに行くね」

「ありがとう、美貴」

「お互い様よ、母さん」


 夕方近くになって、夕飯の支度をしている時に母さんの呼ぶ声がした。

 行ってみると申し訳なさそうにこちらを見ている。


「美貴。外のトイレに行きたいんだけど、力が入らなくて。

 一人で行けそうにないんだよ」

「わかったわ。介助すればいいのね」


 口では冷静に言ったけれど、心の中はひどく動揺していた。

 こんな事は初めて。

 ふと頭に過ぎったのは、例の流行り病。


 もしかしたら。


 母さんをトイレに行かせてしばらくしたら、玄関の方から音がした。

 智が帰って来たみたいだ。


 なにか知っているのかもしれない。


「母さんの様子が悪いんだけれど、智、なにか知っているの」

「まだ未確認情報なんだが、流行り病ではないかと疑う人達がいる。明日の早朝に、漢方医が多くの病人が出ている集団から帰ってくるらしい。詳しい話はその人待ちになる。これ頭痛薬と熱冷ましの漢方。お母さん、もしかして熱が出ているのではと思って」

「頭痛と熱がある。でも智には頭痛しか言ってないと言っていたけど、どうして熱があるの知っているの」

「あの高橋さんの初期症状に似ている。彼は最初は頭痛。それから高熱で起き上がれなくなっているそうだよ。もしかしたらと思ってね。悪い予感が当たったな」

「それって、まさか。母さんを隔離しないと。道夫に移ったら大変」


 私は急いで母さんの部屋に入った。


 そこでは道夫が母さんの横で、オモチャで遊んでいた。

 急いで道夫を別の部屋に連れて行った。


 もしかしたら、道夫にも病気が移ったかも知れないと、凄く不安になった。


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