第33話 男。流行り病。

 俺達は、ここの習慣に合わせて日が昇ってから起きて朝ご飯を作り、食べてから仕事場に行った。

 最初の日は顔みせと、ここのリーダーを決めることが主な仕事になる。

 今日だけ道夫は一緒に連れて来て、翌日からは交代で見る事にした。


「やったー。これで全勝」

「あーあ。美貴とお母さんに負けたよ。予想はしていたけれども、現実を突きつけられると少なからずショックを受けたよ」

「智、気にしないの。今回はハッカーとしての能力だけだから、ね」


 俺の提案で、リーダーを決めるのは、ハッカーの実力が一番の人がなるべきだと提案したら、全員一致で賛同してくれた。

 総当たり戦で、1日かけて戦った。結果は美貴が全勝。俺とお母さんが二敗で、他のメンバーはその後に続いた。


 美貴は昨日の歓迎会から帰ったら、やけに元気だった。

 よほど美味し物を食べたのかは分からないが、その勢いで全勝したのではと俺は内心思っている。

 いつもの彼女に比べると格段にテンションが上がっていて、なおかつ、冷静に判断していた。


 いや、もしかして。システムを作った高橋さんの予言で現れるプログラマーの能力を彼が予測し、彼女の能力でないと今回の件が成功しないと確信していたのではないか。

 昔の出産に関する資料を読んでいたら、母は強し、と言う言葉がやけに印象に残っていたんだが、今回の総当たり戦で再び思い出した。

 父親と母親の大きな違いは、自分のお腹を痛めて産んだ子供に対する愛情の度合いが、格段に違うのかもしれない。

 子供に対する彼女の愛情の深さは俺と同じだと思っていたが、どうやら認識を改めなければならないのか。


 それからの1週間は順調に過ぎた。

 今日、道夫と一緒にいるのは美貴だ。お母さんと仕事場で話していると、どうも彼女の様子がおかしい。


「お母さん、具合でも悪いんですか」

「お昼頃から頭痛がひどくなってね。この頭痛が思考を邪魔するんだよ」

「今日は帰って、ゆっくりと家で休んだ方がいいですよ」

「そうかい。そうさせてもらうかね」


 お母さんが家に帰った後で佐藤君が話しかけて来た。


「智さん。実は良くないニュースがあるんです。

 再び、流行り病が起こり始めたみたいなんです」

「え、本当なのかい」

「まだ確認は取れていないのですが、近くの集団の中に病気で亡くなっている方が増えていると。それに、ここでも同じ症状で苦しんでいる方もいます」

「それはどんな症状なんだい」

「少し言いづらいのですが、先ほどのお母様の症状と全く同じなのです。初期症状は激しい頭痛、その後高熱が続き起き上がれなくなる。その後の情報は未確認んです。高熱で起き上がれないのは、ここの集団では高橋さんに現れているそうです」

「え、あの代表の高橋さんですか」

「はい、そうです。みんな心配しています。

 しかし、それに対する漢方は頭痛と熱冷しだけなんです。漢方医の人は今は隣の集団に応援に行っています。明日、こちらに戻って来てあちらの現状と、詳しい病気の症状を報告するそうです。私もそれ以上は知りませんが。もし、流行り病だとしたら、ここは当分の間活動は出来ません。病気の拡散を防ぐために、出来るだけ人が集まらないようにする為です」

「わかりました。

 明日になれば詳しく何かわかると言う事ですね。頭痛と熱冷ましの漢方は、どこに行ったらもらえるのでしょうか」

「あの一番大きな建物の地下に行くと、漢方と書かれた表示が見えます。そこの担当の方に話すともらえます」

「ありがとう。帰りに、お母さんの漢方を取りによって帰ります。でも、もし、流行り病だと大変なことになりますね」

「最後の流行り病は五年前だったのですが、あの当時は多くの方が亡くなりました。今回は、違うことを願っているのですが、こればかりは人の知るところではないので」


 仕事が終わって、お母さん用に漢方を持って帰るために大きな建物に立ち寄った。そこでは、さっき話していた流行り病の話をしていた。

 立ち聞きをして情報を集めた。

 どうやら、高橋さん以外にも二、三人いるらしい。

 詳しい話は誰も知らず、結局、明日帰る漢方医の情報待ちだった。

 家に帰ると美貴が血相を変えて俺に質問をしてきた。


「母さんの様子が悪いんだけれど、智、なにか知っているの」

「まだ未確認情報なんだが、流行り病ではないかと疑う人達がいる。明日の早朝に、漢方医が多くの病人が出ている集団から帰ってくるらしい。詳しい話はその人待ちになる。これ頭痛薬と熱冷ましの漢方。お母さん、もしかして熱が出ているのではと思って」

「頭痛と熱がある。でも智には頭痛しか言ってないと言っていたけど、どうして熱があるの知っているの」

「あの高橋さんの初期症状に似ている。彼は最初は頭痛。それから高熱で起き上がれなくなっているそうだよ。もしかしたらと思ってね。悪い予感が当たったな」

「それって、まさか。母さんを隔離しないと。道夫に移ったら大変」


 そう言うと美貴は急いで奥に行った。

 俺としたことが、道夫の事を考えるのを忘れていた。

 お母さんを隔離しないと、やばいことになる。

 俺も急いで奥に行った。

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