第26話 女。パーパ。

 今日の午後、私の裁判があると知らされていた。

すでに智と母さんの裁判は昨日終わっており、2人とも追放になったと聞かされた。

家族が再び会える喜びを隠せなかった。

道夫の成長ぶりは目を見張るものがあり、このあいだ歩き始めたかと思うと、今ではトコトコと、どこでも行きたがる。と

いっても狭い牢屋の中だけの話だけど。智に今の道夫を見てもらうのも、もうすぐだ。

彼はきっと喜ぶだろう。向こうから誰か来る。

弁護士さんと、もう1人の人が見えた。


「おはよう。」

「おはようございます」

「智君の写真が手に入ってね。早く見たいだろうと思って持って来たんだ。

あ、この人は監視役。

私が変なものを渡すのを見張る人。この写真に何か細工がないか調べてたよ。単なる写真なのにね。

はいどうぞ。

彼とても元気そうね」


 そう言うと、弁護士さんは微笑みながら食事を出し入れする所に数枚の写真を置いた。

それらの写真を手に取って見ると、懐かしい智の顔がそこにあった。

場内に入って来る時の写真、話をしている時の写真、そして退場する時の写真だった。

少し痩せた感じがしたけど健康そう。

最初の写真は清々しい感じのする写真だった。いつも見慣れている智の顔に最も近い。

次の写真は真剣な眼差しで話している。何を話しているのか気になった。私を説得する時の顔に近い。最後は笑みを満面に浮かべ、自信に満ちた顔立ちだった。

このような感じの彼を今まで見たことがなかった。また、新しい彼を発見、嬉しくなった。


「あれ、なんでぼやけて来るの」


 思わず言った言葉と当時に、私は涙を流しているのに気付いた。

懐かしさのあまり涙が出てきたんだ。


「あらあら、涙を拭きなよ。それじゃ写真はボケて見えるよ」


 涙を拭きながら私は笑っていた。


「いつも気を使っていただいて、ありがとうございます。

智がこんなに元気なので安心しました」

「そうなんだよね。

最初見た時はびっくりしたよ。

普通、ここに入ると陰険な顔になるんだけどね。

貴方といい、彼といい、なんでこんなに穏やかなのか理解できないよ」

「そうですか。

多分家族の絆があるからだと思います。

最初は悪い方ばかり考えていたのですが、彼が頑張っているんだから、私も頑張ろうと思ったんです。そうすると心の中にあった暗雲が無くなって、まるで青空が広がるような気持ちに」

「いいね、家族は。

それと、その写真の中で彼が話しているのがあるだろう。

彼の言ったことを掲載したメディアがあって、これがそのコピー。

後はと、そうそう。

彼の言ったことに関して男地区での世論調査したメディアがあってね、面白い結果が出ていたよ」

「智の発言に対する世論調査ですか。

興味があります。

彼の発言をまだ読んでませんが、結果だけ教えてください」

「それがね、予想以上に彼に対する賛同が多かったんだよ。56パーセントの人達が共感もしくは賛成しているんだよ。これは画期的な事かもしれないよ。

半数以上の人達さ」

「そんなに多くの方が。

嬉しいです。

でも、賛成しても社会が変わっていけるんでしょうか」

「いきなりは変われない。

しかし、徐々になんらかの変化があると思っている。

考えてもご覧よ、システムを作ったのは人間なんだ。人間の作ったものなら、変えられる可能性があるじゃないか。女地区でのアンケートをしたメディアはまだ無いけれど、向こうよりも支持が高くなるのは間違いないね」


 少しづつ社会が変わって、最後には全て女の人が赤ちゃんを産めたらいいなと思う。

でも、そんな日が来るのだろうか。


「弁護の事なんだけれどね、この社会のあり方自体が間違っている事を主張し、3人を同時に無罪できるように努力するつもり。

可能性は低いけれど頑張って見るよ」

「ありがとうございます。

でも、社会を批判する事はシステムを批判する事と同じ事になるので、裁判官は納得しないと思うのですが」

「納得しないのは承知の上。

目的は民衆の啓蒙かな」

「民衆の啓蒙ですか。よく分からないのですが」

「簡単に言えば、人々に事実を教えて、意識の変化を促すかな」

「それは、もしかして、出産の事ですか」

「出産も含まれるけど、もっと大きな意味。

社会を構成しているそのもの。

今回の件で昔の社会形態を勉強して、今と何が違うかを調べたわけ。

驚きの連続だったわ」

「何が今と昔では違っていたんですか」

「昔は自由な社会でね、男女の恋愛は自由で、結婚、出産、あるいは離婚ができる。

社会を取り締まる法も、民衆が選挙で代理人を選び、代理人によって多数決で法案が通過しそれが法になる。

もし、当時の政府が気に入らないなら、選挙で政府そのものを入れ替えることも可能だったみたい。

どう、驚くでしょう」

「それ本当なんですか。

信じられません」

「ただ、自由は諸刃の剣と同じで、子供を沢山産むと人口が増えすぎ食糧難になる。

人類存亡の危機が訪れたから、その解決策の為、システムが生まれたんだけどね」


 弁護士さんの話を聞いて疑問が湧いて来た。

なぜ今のシステムを維持しなければならないのか。世界的な食糧難で人口を抑えるためだとは聞かされていた。

けれど、今は食糧難ではなく、有り余るほど食料があるのは周知の事実。


「システムそのものをなくす事は出来ないのですか」

「それが一番の問題点だね。

言葉の上でシステムを批判しても罪にはならない。しかし、システム自体、防衛装置を持っているので、人間が暴力的に襲ってもあっさりと撃退される。

システムを説得させことも多分出来ないだろう」


 法律の専門家である弁護士さんの話を聞いて、すぐにはシステムを変えられない事を知った。

その後ふと思い、道夫に写真を見せた。

もしかすると、この写真でパパだとわかるかもしれない。


「パーパ、パーパ」


 写真を見せた途端、道夫はパパの顔だとわかった。

嬉しかった。

これで智に会った時に道夫はすぐにパパとすぐにわかるだろう。


もう長く会っていないので、再会した時にパパだと認識出来なかったらと思うと心配していた。


 その後、私の裁判が開かれ、追放が確定した。

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