第27話 男。家族の再会。


 判決のあったあの日から3日後、俺は護送されて現在、海沿いの建物の中にいる。

 ここには人は誰もいなかった。

 全てアンドロイドで、武装しているのもいる。

 敷地内は出入り禁止の建物以外は自由に移動でき、牢屋に入る必要がなかった。

 ただ、敷地の境界線は高い壁になっており、自力では乗り越えられない。例え乗り越えても撃ち殺されるだろう。

 ここは海辺の要塞だと俺は確信した。

 ここに来てすぐに案内係りのアンドロイドが、明日の朝早く船が出航すると教えてくれた。

 それと今日の午後に、あと3人加わるとも教えてくれた。

 美貴と道夫、それと美貴のお母さんだ。

 間違いない。

 嬉しさもあったが、これから先の不安もあった。

 今まで想像で考えていた追放先が、ついに現実のものとなる。

 俺たちはそこに明日旅立つ。

 考えても仕方ないか。

 少なくとも人間が住んでいるのは確信があった。

 午後になり、俺はいつ家族が来るかと、首を長くして待っていると、俺がここに入って来た時に開いた正門が再び開いた。

 向こうから俺が乗って来た時と同じタイプの車がやって来きて止まった。

 降りてきたのは美貴と道夫、そして美貴のお母さんらしき人だった。

 俺はもちろん3人に駆け寄った。

 道夫は美貴に抱かれていて,俺は2人同時に抱きしめた。

 美貴の顔を見ると涙が止まることなく流れていた。勿論俺も涙を止めることができなかった。


「パーパ、パーパ」


 突然道夫がパーパと言った。

 おれは嬉しくなって、道夫だけを抱いた。

 そして道夫を両手で持ち上げ。


「高い高い、高い高い」


 何度も、何度も、高い高いをした。

 その都度道夫が満面の笑みで喜んでいる。

 しばらくして道夫を抱きながら、美貴のお母さんの方を振り向いた。

 美貴がすぐに彼女の紹介をしてくれた。


「母です。

 母さん、こちらが私の旦那様の智です」

「初めまして。美貴が色々とお世話になっています」

「初めまして。智です。いえ、こちらこそおせ」


 挨拶をしている最中に、午前中に俺に説明してくれたアンドロイドが近寄り、俺に説明したと同じ内容を美貴たちに説明した。

 一言一句同じセリフだったので、少し笑った。


「そういう訳で、出航は明日の朝だ。

 ここではなんだから、食堂に行かないか。

 食事は多分まだだろ」

「ええ、智。お腹がペッコペコ。

 お母さんは?。

「私もだね。

 長旅で、お水しかもらえなかったから」

「そう言うことなら行きますかね。

 あ、そうだ。ここのランチはまずいけど」


 俺が言おうとすると、美貴が手で止めた。

 そして。


「フライドチキンは美味しい。でしょう?」


 2人は声をあげて笑った。

 2人同時に笑ったのは久しぶりで、とても嬉しかった。


「正解。さすがだな」

「いえいえ、あなたには負けますわ。

 裁判での発言を読ましてもらったのよ」

「えー、あの時の。

 あの時は真剣だったからな。ない知恵絞って言ったんだぜ、それに」

「ほらほら2人とも。早く食堂に行ってフライドチキンを注文しましょう。

 私はお腹が空いて倒れそうだよ」


 今度は3人が笑った。

 美貴の母さんとは意見が合いそうだ。

 みんなで食堂に場所を移した。


 食堂に着くと係りの人以外誰もいなかった。俺が昼ごはんを食べた時は大勢いた。


 ちょうどよかった。

 家族が久しぶりに再会する場面で、大勢の人がいると雰囲気に合わない。

 係りの人に注文をした。

 もちろん、フライドチキンも入っている。俺はコーヒだけ頼んだ。テーブルに着くと道夫を下におろした。


 すると道夫が止まることなく、あちこち歩き始めた。まるで自由を楽しんでいるかのようだ。

 そうか、美貴と道夫も狭い牢屋暮らしで、こんなに広い場所は久しぶりなんだ。

 しばらく俺は道夫を見ていた。

 見ていて飽きなかった。


「これは驚いた。

 しばらく見ないうちに成長したもんだなぁ。

 言葉の方はどうなんだ、美貴」

「かなり増えたわよ。バーバも言えるしね。母さん」

「そうなんだよ。孫に言われるとつい微笑んでしまうね」

「俺も同じ感じですね。

 子供の成長が今の俺の生きがいの1つである事は間違いない」

「同意見だね。

 孫会いたさに、ここまで来てしまったから」

「そうだ。智に報告があったんだ。なんだと思う」

「え、俺に報告。なんの。全く想像がつかない」

「あなたが原因よ」


 美貴は少し頬を赤らめている。

 なんの話かさっぱりわからない。


「ますますわからない。

 降参だ。降参。

 早く教えてくれよ」


 美貴は久しぶりに弾けるような笑顔になった。

 俺が最も好きな美貴の笑顔だ。

 これは余程いい事か。美貴が俺に近づいて言った


「お腹の中にはあなたのせいで、2人目の赤ちゃんがいまーす」


 俺は思わず目を丸くし、次の瞬間には美貴を抱きしめキスをしていた。

 家族が再会しただけでも嬉しいのに、その上2人目。

 俺はなんて幸せ者なんだ。


「美貴よくやったな」

「あら、言ったでしょう。あなたのせいだって」





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