第20話 女。子供のために。
智に起こされるまで、私はぐっすりと眠っていた。家事と子供の世話。思ってたいた以上に重労働だ。私の性格かも知れないけれど。何事もきっちりしないとな気が済まない。毎日掃除洗濯をし、食事はインスタントにしていない。
便利なのは知っているけれど、母さんが毎食作ってくれたようにしたい。だって、それが自然で子供の為であると信じている。出来上がりのインスタントを温めるだけで、智には出せない。ましてや子供には論外。子供には特に、毎食栄養のバランスを考えながら作っている。それに、最近は子供に絵本を毎日10冊以上読み聞かせしている。子供の脳内のシナプスを活性化させて、子供の能力を高める為だ。
「美貴起きてくれ」
「え、今何時」
「隆が裏切って、後3時間後に警察がここに来る。以前から練っていた逃走の準備だ」
「わかったわ。坊やは」
「寝ている。俺は出発の準備をするよ」
「私はみんなのスマホを外すのね。簡単なことよ」
口では簡単と言ったけれど、3人分は時間がかかる。頭の中でシュミレーションを何度もしていたので、予定の時間内に蹟かずに解除できた。後はスマホの方の簡単な操作だけで外せる。まず、道夫のスマホを外した。そして私のを。
「美貴、俺のスマホも外してくれ」
「ちょっと待ってね。ハイ終わり。少し痛かった?」
「少しだけな。これってちょっとした感動ものだな。小さい頃から外したかったのに、簡単に外れたよ。よし行こう」
「はい、あなた」
もしものために、2人で逃走計画を立てていた。今はそれに従って行動するだけだ。迷っていたら捕まってしまう。外は都合よく月明かり。なんとか山へ続く道が見えている。良かった。新月だったら厄介だった。
智のアイデアで、スマホを外したら川に流す事にしていた。追っ手は、私達が船に乗って川を下って行ったと勘違いさすため。これでかなり時間を稼げると彼は予想していた。私もその意見に賛同した。そして、今それを実行している。
「これでよしと。時間がかなり稼げるだろう」
「あなた見て。私達の家の周りに、車があんなに沢山」
「危なかったな。パトカーだよ。知宏に感謝しないとな。よし、こっちだ。道夫は大丈夫か」
「 坊やはぐっすりと眠っているわ」
「親孝行な息子だよな」
「本当に」
坊やごめんね。あなたの人生を大きく狂わせてしまった。計画通りに行く予定だったんだけど、人間の計り知れない心を読み取ることが出来なかった。コンピュータは、入力したプログラム命令を厳密に守ってくれる、けれど、人の心はこちらの思うようには上手くいかない。パパが最も信頼していたお友達に、私達の秘密を打ち明けた。最初は良かったんだけどね。何が彼を変えたか分からないの。坊や、本当にごめんね。
「美貴、ここで少し休もう。6時間以上歩きっぱなしだ」
「はい。坊やにおっぱいをあげないと。それと私たちには朝ごはんですね」
「そうなんだよ。こんなに歩くとお腹が空いて。お腹がぐーぐー泣いてるよ」
「ウフフ。私も似たようなものよ」
今は道夫の事だけを考えよう。迷っていても始まらない。しっかり食べて、あなたにおっぱいをあげる。母親としてできる精一杯の愛。
「少し足が痛いわ。あ、靴ずれしてる」
「ちょっと見せてくれ。血が出ている。これで少しなのか」
「そのう、痛いです。でも、手当すれば全く問題なく歩けますよ」
「ばかだなー。そこまで我慢するなよ」
「ごめんなさい」
凄く痛かったけど、靴ずれと分かっていたのでここまで歩いてきた。思っていたよりひどい。でも、手当すればなんとかなるレベル。ここで私が弱音を言うわけには絶対できないわ。
「智 、そろそろ行きませんか」
「止めても行きたいんだろ。もう少し美貴の体を休ませたかったけど。ま、俺たちは追われている身だからな。しかたないか。靴ずれは大丈夫だよな?」
「正直に言って痛いのですが。この子を産んだ時の痛みに比べれば十分の1でしかないですよ」
「そうだよな。あの時の美貴は凄かったもんな」
「もう、あなたったら」
この時は緊張がほぐれ、思わず笑ってしまった。突然、智が道夫に近づいてきた。え、何事。何かあったの。
「いない、いない、ばー」
道夫が笑っている。あーびっくりした。私もつられて笑った。優しいパパ。こんな状態でも息子の事を気にかけている。
「よし、では行きますか、奥様。こんなに晴れて、絶好の散歩日和ですよ」
「はい、旦那様。本当に天気も良く。ちょとした散歩にはいいですね」
もう智たっら、笑わせることばかり。私にも気を使っている。旦那様が彼でよかった。
「痛、まただ。また小枝で引っ掻いた。あーあ、今度は血が出ている」
「智、大丈夫なの」
「暗くなってきて、前がよく見えないんだよな。そろそろ寝るところを確保しないとな」
「そうね。あそこに、大きな岩があるからその下はどうかしら」
「行ってみるか」
私達はここでキャンプをする事に決めた。これで休める。一歩一歩靴ずれの痛みが私の気力を奪っていた。将来の不安を頭の中から消し去ろうとしても、現実の痛みに連動して心に襲い掛かっていた。精神的にも、肉体的にも限界だったので助かった。
「智、隆が裏切ったのは何故なのかしら。あんなに協力的だったのに」
「そうなんだよ。訳、分からないよな」
「何が原因で彼を変容させたのか知りたいけれど、今は睡眠が必要みたい」
「もう寝るか。明日も早く起きないといけないし。おやすみ、美貴」
「おやすみなさい、あなた」
大きな寝袋だったので親子3人が一緒に寝れる。こうすると暖かいし、道夫が間に挟まっているので、彼が寒がることもない。私達は寝袋に入ったら、すぐにねむりこんでいた。
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