第8話 女。母さん。私、幸せになります。

 彼のスマホが鳴った。

 きっと裁縫が終わったんだ。

 彼と2階に行くと、同じ人が待っていた。


「花嫁の人はあちらの部屋です。花婿の方はこちらの部屋になります。着付け係の人がいますから、そちらでお着替えになります。」

「ああ、ありがとう。さてと、行きますかね。」

「はい」


 ついに花嫁衣装を着る時がきた。

 彼とお揃いで、しかも私が着たかった和服。

 母さんがこの場にいたらいいのになぁ。きっと母さんも喜んでくれるはず。それだけはちょと寂しかったけど、嬉しい気持には変わらない。

 それに、彼はハンサムで、背が高くって、思っていた以上に優しい。


 さて、着付けしてもらったので、外に出て、彼にこの姿を見てもらわないと。

 意外と歩きにくいなこれ。


 わー、彼、かっこいい。

 本当に私の旦那様になってくれるのかな。


 また、ドキドキしてきた。あ、彼を何て呼んだらいいんだろうか。

 しっかりと聞かないと。


「美貴、とっても綺麗だよ」

「ありがとうございます」

「さてと、いよいよだな」

「はい」

「あのう、貴方のことをなんとお呼びしたらいいですか?」

「そうだな、智でいいよ」

「え、それはいけません。呼び捨てにはできません」

「呼び捨てではなく、信頼しあった夫婦は、親しみを込めて名前だけで読んだ方がいいと思うんだよ。ま、時にはさっき言った、貴方でもいいけどね」

「はい、わかりました。智、さん」

「おいおい、さん付けになってるぞ」

「すみません、努力します」

「いやー、謝る事でもないよ。無理をしないでいいから」

「はい」


 うー、緊張するー。

 今朝初めて会った彼を名前だけで呼ぶなんて今の私には無理。

 でも、言わないと、怪しまれる。


 それにしても、彼の優しさが伝わってくるわ。

 記念撮影も彼は優しかった。


 私と彼は結婚式場に入っていった。


「2人とも、 並んでこちらに来なさい」


 曲が流れてきた。


 やっぱりこの曲なんだ。


 女の子が憧れる結婚式での曲はどっちかだもんね。


「 美貴。この曲、知っているかい」

「はい、この曲は結婚行進曲として昔から親しまれています。作曲者はワーグナーです」

「そうか、この場の雰囲気にぴったりだな」


 彼が私の手を取って、ゆっくりと前の方に進みでた。

 前の方に行くと、老人がそこで止まりなさいと指示をした。


「えー、これから結婚式を始める。その前に君たちの名前を教えてくれないかね」

「俺の名前は智で、彼女の名前は美貴です」

「ではタブレットの、こことここにサインして」


 彼は、契約の規則を素早く読んでサインした。

 私は契約をじっくりと読んでサインした。

 もし、私が人間と判った時の為に、結婚の規則を知っておきたかったからだ。


 規則では、 この時からアンドロイドは、人間としての権利がある事が書かれてある。思っていたよりも今後の生活はしやすいのかもしれないわ。


「よろしい。ではお互いに 向き合いなさい」


 お互いに向き合い、見つめ合った。彼も緊張している。


「今、私たちは、智さんと美貴さんの結婚式をこれからあげます。智さんと美貴さんは今結婚しようとしています」

「智さん、あなたはこの女性を健康な時も、病の時も、富める時も、貧しい時も愛し合い、なぐさめ助けて、人生が終わるまで変わることなく愛することを誓いますか」

「はい、誓います」

「美貴さん、あなたはこの男性を健康な時も、病の時も、富める時も、貧しい時も愛し合い、なぐさめ助けて、人生が終わるまで変わることなく愛することを誓いますか」

「はい、誓います」

「お二人は、自分自身をお互いに捧げる覚悟がありますか」

「はい、捧げます」

「はい、捧げます」

「では、誓いの印として指輪を」


 さっき2人で買った指輪を、彼が私の指に嵌めてくれた。


 私は彼の指に指輪を嵌めた時、私の手が少し震えていた。


 こんなに緊張するなんて 。


 彼も同じように緊張しているのが伝わってくる。


 私は、喜びの感情を抑えることができなかった。


「ここに、この2人が夫婦であることを宣言します。誓いのキスを」


 始めてのキスを、彼は優しくしてくれた。

 母さん、私幸せになります。

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