第7話 男。結婚式

 呼び出しがあったので2階に向かった。さっきの係の人が待っていた。


「花嫁の人はあちらの部屋です。花婿の方はこちらの部屋になります。着付け係の人がいますから、そちらでお着替えになります。」

「ああ、ありがとう。さてと、行きますかね。」

「はい」


 和服を着るのは、確か七五三の時以来だ。

 こういった昔ながらの風習は無くならないんだなと思いながら、紋付き羽織袴を着せてもらった。

 着替えを終え、外で待っていると美貴が静かに歩いてきた。

 やはり、少しばかり歩きにくそうだ。

 近くに来ると、美貴の喜んでいる顔がはっきりと見えた。

 彼女の顔を見ると、庇いたい気持ちが何故だか分からないが自然と沸き起こって来る。


「美貴、とっても綺麗だよ」

「ありがとうございます」

「さてと、いよいよだな」

「はい」

「あのう、貴方のことを何とお呼びしたらいいですか?」

「そうだな、智でいいよ」

「え、それはいけません。呼び捨てには出来ません」

「呼び捨てではなく、信頼しあった夫婦は、親しみを込めて名前だけで読んだ方がいいと思うんだよ。ま、時にはさっき言った、貴方でもいいけどね」

「はい、わかりました。智、さん」

「おいおい、さん付けになってるぞ」

「すみません、努力します」

「いやー、謝る事でもないよ。無理をしないでいいから」

「はい」


 記念撮影が終わると、2人は結婚式場に入っていた。

 式場の奥には1人の老人が立っていた。


「2人とも、 並んでこちらに来なさい」


 曲が流れてきた。知らない曲だ。

 美貴なら知っているかもしれない。


「 美貴。この曲、知っているかい」

「はい、この曲は結婚行進曲として昔から親しまれています。

 作曲者はワーグナーです」

「そうか、この場の雰囲気にぴったりだな」


 美貴の手を取って、ゆっくりと前の方に進みでた。

 前の方に行くと、老人がそこで止まりなさいと指示をした。


「えー、これから結婚式を始める。その前に君たちの名前を教えてくれないかね」

「俺の名前は智で、彼女の名前は美貴です」

「ではタブレットの、こことここにサインして」


 契約の規則が書かれてあったが、ざっと読んでサインした。

 美貴は契約をじっくりと読んでサインした。

 彼女の性格が少しだけわかった。


「よろしい。ではお互いに 向き合いなさい」


 お互いに向き合い、見つめ合った。美貴は神妙な面持ちだ。


「今、私たちは、智さんと美貴さんの結婚式をこれからあげます。智さんと美貴さんは今結婚しようとしています」

「智さん、あなたはこの女性を健康な時も、病の時も、富める時も、貧しい時も愛し合い、なぐさめ助けて、人生が終わるまで変わることなく愛することを誓いますか」

「はい、誓います」

「美貴さん、あなたはこの男性を健康な時も、病の時も、富める時も、貧しい時も愛し合い、なぐさめ助けて、人生が終わるまで変わることなく愛することを誓いますか」

「はい、誓います」

「お二人は、自分自身をお互いに捧げる覚悟がありますか」

「はい、捧げます」

「はい、捧げます」

「では、誓いの印として指輪を」


 さっき買っていた指輪を美貴の指に嵌め、美貴は俺の指に嵌めてくれた。

 美貴の手が僅かながら震えている。

 美貴の緊張感と、喜びの心が同時に伝わってくる。

 俺も似たような感情が沸き起こってくるのを止めれなかった。


「ここに、この2人が夫婦であることを宣言します。誓いのキスを」


 美貴の唇は柔らかく、優しく、そして甘いキスだった。

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