第9話 男。ハネムーン

 結婚式を終えた俺たちは、1週間のハネムーンに旅立った。

 旅のプランは数日前に決めており、予約をしてあった。

 旅行代理店に相談したら、ハネムーン用の旅行パックがいくつかあり、その中の一つに決めていた。

 そこは総合リゾートで、カジノを始め、室内プール、テニス、ゴルフなどのスポーツはもちろん、海水浴、映画館、ショッピングモール、遊園地なども完備されていた。

 美貴はもちろんだが、俺も初めての場所だった。

 最初にホテルでチックインして、荷物を部屋に運んでもらった。

 最初にやる事は決まっていた。美貴は、今着ている服しか持っていなくて、彼女の服が必要だった。


「やっと着いたな。疲れたかい」

「少しだけ。でも、まだまだ動けます」

「よし、それじゃ、美貴の服を買いに行こうか」

「よろしくお願いします」

「いや、さっきも言ったように、他人行儀な話し方は無しだ。

 でも、急には無理か」

「努力しているのですが、つい、口から出てくるのです」


 美貴が言い終わらない内に彼女を抱き寄せ、キスをした。

 美貴からは微弱だが、香水の匂いがした。

 このまま、ずっと抱いていたかった。


「この口から出る言葉なら、どんな言葉でも歓迎さ」

「私、こんなに幸せでいいのでしょうか?」

「もちろんだよ。

 キザな言葉かもしれないけど、2人一緒に、もっと、もっと幸せになろうよ」

「はい」


 まだ、1日も経っていないのに、美貴を離したくない気持ちで一杯になった。


「おっと、こうしている時間はない。

 姫君、参りましょうか」

「はい、王子さま」


 2人は同時に笑った。

 美貴の笑顔がとても素敵だった。

 ショッピンモールに着いて、最初に美貴の普段着を選ぶ事にした。


「来た時は、気がつかなかったけど、人がほとんどいないな」


 巨大なショッピンモールのビルの中の人影が、まばらなのに気がついた。

 ここもか。

 高層マンションに住んでいる時もそうだったし、大学もそうだった。だいがくの授業では数人のクラスというのは、よくあった。

 至る所に設備と物は溢れているのに、肝心な人が少ない。

 結婚式場で会った人間も数えるほどしかいなかった。

 おっと、今日はそんな事考えたくないな。


「どうかしましたか」

「いや、なんでもないよ。それより、こっち方が似合ってないか」

「それでは、これを試着してみますね」


 その服は青色のワンピースだった。

 今まで気付かなかったけど、服を変えるだけでその人のイメージが変わるんだな。さっき選んだ服の美貴とだいぶイメージが違う。

 案外買い物って楽しいな。

 今までは、最高位を取るためにがむしゃらに勉強してきたためだ。

 服は着られればいいと思っていた。


「それ、決まりだな。

 似合っているよ」

「そうですね。

 昔、選。そのー、これ好きです」

「よし、それも買おう」

「こんなに服を買ってもらって、いいのですか?」

「もちろんだよ。

 ポイントは沢山あるんだ。後で詳しく教えるよ」

「はい。

 ありがとう、智」

「おーおー、それそれ。

 初めて名前だけで呼んでくれた。

 とっても嬉しいよ」

「はい。頑張ります」

「いや、頑張らなくても。

 一緒に生活すると、たぶん自然に出てくるよ。

 じゃ、これで今日の買い物は終わりにしよう」

「はい」


 美貴の手を取り一緒に歩いた。

 気分は最高だ。

 外に出るとすでに夜になっていたので、ホテルに帰った。


 そういえばお腹がすいた。買い物に夢中で気がつかなかった。


「お腹すいたな。これからご飯にしないか?」

「私も、そのー、お腹がすいています」

「よし、さっき買ったディナー用のドレスを着て、レストランで食事だ」

「え、本当ですか。すごく楽しみです」


 美貴は、弾けるような笑顔になった。

 俺もつられて微笑んでいた。





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