まっしろなせかいへぼくはすすんでいく。 ミニチュアダックスフンドが空を飛び僕に囁いている。
とりをとこ
まっしろなせかいへぼくはすすんでいく。 ミニチュアダックスフンドが空を飛び僕に囁いている。
僕の前に死神が現れた。
その死神はきれいな女の子で、ジーンズにふわふわのセーターを着ていて死神とは思えない服装だった。
でもなんで、何故この女の子を死神と認識できたか。
その答えは紛れもなく僕の脳で飼っている悲しみというイヌが「その女は死神だ」と叫ぶのである。
そのイヌの犬種はミニチュアダックスフンド。酷く短いその足で僕の頭の中を駆けずり回って悲しみを振りまくのだ。
女の子は死神であった。
僕を切り裂き、地獄の底に突き落とすため鎌なんて持ってや居ない。
でもダックスフンドが死神だと警鐘を鳴らすのだからそれは紛れもなく死神だった。
ワンワン。
そいつはしにがみなのだよ。と。
死神の女の子は何も語らなかった。
僕をただ見つめ、しっとりとその視線は僕の瞳の奥そこにある悲しみという感情を射抜いていた。
心臓がバクバクと脈打ち、「なるほどこの死神は視線で僕を殺すのだな」とそんなことを考えてしまった。
華奢な身体は動かない。ただ視線が僕を射抜く。心の奥底までヌラリと舐められるようなそんな感覚に脳みそが蕩けてしまいそうだ。
僕は分かっていた。
この世界は夢の中なのだと。
ベッドに身体を預け、その身体が汗ばみながら観ている、身を任せているくだらない夢なのだと。
夢なのに。
その視線で殺されるような気がした。
ぼくはびくびくしていた。
ゲームなんかじゃないけれど毒のバッドステータスのようにじわりじわりとそのライフポイントが減り続けているのが感じ取れた。
きっと現実世界で悪夢にうなされている僕は臆病だから、こんな事が起こっている今。すぐに逃げ出すはずだ。
だけれど今の僕は動けない。
夢という影の中、彼女に影縫いされて身動きが取れない。
全く、なんて視線なのだろう。
じわじわと削るのに飽きて、さっさと僕に裁きを下せばいいじゃないか。
何故そんなに焦らすのだ?
期待してしまうではないか。
僕はすぐに結果がほしいんだ。
0か1か。
そう僕は限り無くゼロに近いじゃないか。知っているんだぞ。
僕は死にかけのラジオみたいにただただ妄言を垂れ流すただの不良品だ、何も満たすことなど無い。
ちからなどない。ひりきで。妄想の世界でただただ優越に浸る見窄らしい存在なんだ。
はやく、ころせ。
僕に裁きを。
はやく終止符を。
疲れているんだ。
終わらせてくれ。
段々と現実世界の僕の鼓動が早くなっているのが感じ取れた。
おそらく、夢はもう覚める。
寝ても覚めても終わらない僕の鼓動が地獄のリズムを刻み続ける。
眼が覚めればそこは病室。
窓に目線をやればビル群が僕を見下している。
腕には手錠があって自由に身動きなんて取れやしない。
疲れなんて取れやしない。
分かっているんだ。そう。
解ってる。
さぁ。早く。
君の匂いを嗅がせておくれ。
目が覚めると見覚えのある天井だった。
身体は汗ばみくだらない悪夢を観ていたのだと理解する。
精神病棟は何処もかしこも真っ白だった。
壁。
床。
タンス。
ベッド。
この読者が精神病棟に存在するものは何か?という考えに対して思いつくものすべてが。
白い。
立ち上がろう。
死神に殺された僕は行かなければならない。
まっしろなせかいへぼくはすすんでいく。
ミニチュアダックスフンドが空を飛び僕に囁いている。
「彼女を探せ」と。
まっしろなせかいへぼくはすすんでいく。 ミニチュアダックスフンドが空を飛び僕に囁いている。 とりをとこ @toriwotoko
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