第125話 外伝30.1961年 月での結婚式
――1961年 月 フォン・ブラウン基地建設予定地
世界で初めて月に到達した日本は、ドイツの協力を得ながら月に基地を建設する計画を発表した。月基地の名前を決定するまでの間、日独であれやこれやと押し合いがあった。
ドイツからは日本風の名称「かぐや」が提案され、日本はロケット開発に多大な功績を残しているドイツの博士から名前を取り、「フォン・ブラウン」と提案する。
ドイツは日本が主導し進めるプロジェクトなのだから、自国の博士の名前を名誉ある世界初の月基地に使ってくれることは嬉しいが、日本名にすべきだと押すものの、日本はヴェルナー・フォン・ブラウン博士の功績をドイツに熱く語り、博士本人をも説得し月基地「フォン・ブラウン」の名前で押し切ってしまった。
ドイツとしては日本が何故ここまで譲ってくれるのか少しだけ疑問に思ったらしいが、日本はいつも名を他国に譲り、実を取るやり方を行ってきた。これは日本なりのドイツへの配慮なのだろうとドイツは納得したという。
日独は偉大なる月基地建設プロジェクトの建設開始に華々しいイベントを行うことを模索していた。そこで白羽の矢が当たったのが、月に初めて到達した人類である日本の宇宙飛行士「|宗近《むねちか」とドイツの宇宙飛行士「ヒルデ」だった。
二人が恋仲で結婚も近いという話はプロジェクトメンバー内では周知の事実で、月基地予定地でとあるイベントを行うことを日独の宇宙開発機構が暗躍し始める。
まずは彼らの両親がターゲットになった。彼らの両親は自らの子供の晴れ姿を直接見ることができないというのに、即答でこの素敵なイベント提案に賛成する。ヒルデの両親は「偉大なこと」だと感じ入った様子で、
こうして外堀を固めてから二人の宇宙飛行士に話がいく。彼らと共に人類初の月着陸を達成した友人の既婚者である
その結果、フォン・ブラウン月基地建設予定地で
月での結婚式が日独の宇宙開発機構から発表されると世界中で話題となり、結婚する二人を祝うメッセージが世界中から舞い込んだ。なんとイギリス首相やアメリカ大統領からも祝電が届く事態となったのだ。
結婚式を行うことを説得された二人は世界中のあまりの盛り上がりに若干引いていたが、やると決めたらやるのが宇宙飛行士魂……結婚式の準備を着々と進めて行く。
結婚式は世界各国でテレビ中継が行われるものの、月に居ることができる人間の数は技術的な制約があり非常に少ない。結婚する宗近とヒルデに加え、神父役の
もちろん宇宙服を脱ぐこともできないから、三人の姿は結婚式とは思えない恰好ではあった。しかしながら、二人のサインを入れるサインボードや、数は少ないが両親や親友の写真を張り付けたパネルなどが準備される。
神父役の
「
「はい。誓います」
「
「はい。誓います」
こうして世界中が見守る中、宣誓の儀式を終えた二人に世界中が祝福する。特にこのときのイタリアの騒ぎぷりが一番激しいものだったようで、イタリアのローマでは完全に休日のお祭りモードになっていたという。
二人は宇宙服越しに抱き合い、結婚式は無事滞りなく終了する。
式を執り行った後、神父役の
現時点の技術力では月に長く滞在することは叶わない。今回の月での結婚式も結婚式のみを行いに月まで来たわけではなく、他の実験を彼らは行わねばならないのだ。月へ結婚式だけ行いに来れる日もそう遠くないと三人は確信していたが、今はまだ予算の都合上それは叶わない。
人類は月まで行くことが可能となったが、まだまだ「手軽に」とはならない。人類にとって宇宙船の建造はまだまだ非常に神経をつかうものなのだから……もちろん多大な費用も必要なのである。
彼らが地球へ無事帰還した後、
最終的にこの三人が稼ぎ出したお金は今回のプロジェクトにかかった費用の相当額を賄うことができたという……
彼は自身が死ぬまでにまさか人類が月にまで到達するとは思っていなかったし、ましてや自分の孫が月に行き、結婚式まであげるなんて想像もつかなかった。人はどこまで技術力を発展させていくのだろう。
老齢期になっても、この世の中は驚かされることばかりだと
その時家の呼び鈴が鳴り、彼を孫の
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