第126話 外伝31.2001年鉄道の旅
――2001年 イギリス ロンドン 陽気な二人
数年前、世界最長の鉄道路線は完成していた。しかし僅かではあるがこの路線は延長されることになる。
世界最長の路線とはイギリスのロンドンから日本の樺太の豊原に至る路線になる。経由駅も非常に多く、西から順に路線を見て行くと……イギリスのロンドンから始まり、イギリスとヨーロッパ大陸を繋ぐドーバー海底トンネルを通ってフランスのパリに至る。パリからベルリンへ線路は続き、オーストリア連邦のウィーンを経由する。
ウィーンから北上し、ポーランドのワルシャワを通過、ソ連のモスクワに至り、モスクワからはシベリアを横断してロシア連邦のバハロフスクを経由しウラジオストックへ。ここから間宮海峡にある海底トンネルを通過して日本に入る。
そして、日本の豊原駅が終点になる。日本では縦横無尽に鉄道が張り巡らされており、豊原からも新幹線が北海道まで走っていたが終点は豊原駅だった。北海道の札幌から東京まではリニアが走っているが、世界各国の要望がありこの世界最長路線の終着駅を札幌に変更することが決定し延伸工事が着工していた。
日本としてもどうせ延伸するなら、東京まで至ることができるに越したことはなかったが、札幌からの高速鉄道路線はリニアになっており、軌道の問題から札幌までの延長で決定された。札幌までの延伸工事は2000年末で完了し、世界最長路線は若干ではあるが総距離が延長されたというわけだ。
2001年現在、ロンドンから札幌までの直通高速列車の本数は一日一本も走っている。直通高速列車はロンドンを出発し、各都市で休憩を挟みながら数日に渡って走り続けるので、直通便は寝台列車になっている。
列車の中には食堂もあるが、長時間の停車駅もあるので駅を降りて外食をすることも可能となっている。直通高速列車は気候のいい時期だとすぐに予約でいっぱいになるほどの人気を誇っている。
反対側の日本の札幌からもロンドンへ至る直通高速列車は、ロンドン発と同じで一日一本走っており、こちらも日本の夏休みの期間は事前の予約販売が開始されると即予約がいっぱいになってしまう。
直通高速列車の本数を増やして欲しいとの要望はあったが、多くの国を通過する超長距離路線のため調整が難しく、残念ながら本数を増やすには至っっていない。
ロンドンに訪れた陽気なアメリカ人二人はロンドンを観光してから、いよいよ待ちに待ったロンドン発札幌行の直通高速列車に乗車しようとしている。
さきほどから髭もじゃのアメリカ人がしきりに列車の写真を撮影している。もう一人の太ったアメリカ人は肩を竦めフィッシュアンドチップスへ大量に塩を振りかけながら様子を見ている。
「ヘイ! ジョーイ! さっきからご機嫌だな」
「そうだぜえ! ボブ! この列車はCOOLだぜ」
「日本の新幹線だっけか?」
「ボブ! 少し違うが細かいことはどうでもいいんだ。この流線形! COOLだぜ」
さきほどからジョーイは大きな身振り手振りで直通高速列車を褒めたたえている。この列車は日本の最新式の新幹線をモデルに作られており、製造は全て日本国内で行ったとジョーイが持つ資料に記載されている。
日本の新幹線はリニアに切り替えが進んでいるから、日本国内での新幹線の製造は下火になってきていたが、日本国外への輸出が増えてきている。日本の新幹線は海外にある既存の鉄道路線で走らせることも可能で、速度は時速三百キロまで速度を出すことができる優れた列車なのだ。
リニア路線の施設はとても高価で国土の広い国では費用対効果の点からリニアより新幹線の方が実用的になってくる。技術力が低いからリニアではなく新幹線であるとは一概に言えないところがおもしろいとジョーイは考えていた。
アメリカだと鉄道を電化するよりディーゼルの方が費用対効果が良いため、新幹線がアメリカ国内を走ることが今後出てきても、都心部に限られるだろうとジョーイは見ている。
「そういや、ジョーイ。この列車は早いんだってな」
「そうだぜ! ボブ。アメリカだと貨物列車の方が需要があるし、みんな車だからな! こいつは時速三百キロも出るんだぜ」
「ヒュー! そいつはCOOLだな!」
「そうだろう! 日本の札幌についたらリニアに乗るぜ。こいつはもっと速えんだぜ!」
「ほう。そいつあ楽しみだ。俺はどっちかというと、各都市の停車時間が楽しみだったんだがな」
「オウイエ! ボブ! 俺も楽しみだぜー!」
陽気なアメリカ人はビールを片手に直通高速列車に乗り込み、ビールに塩をたっぷり振りかけたフィッシュアンドチップスを酒の肴にしながら発車時刻を待つ。
列車が動き出すと二人は歓声をあげ、外に手を振りながらビールで乾杯する。二人とも「ご機嫌だぜ!」と子供のようなはしゃぎぶりだ。
ビールを飲み終わるとボブはジョーイを食堂車に誘う。
「オオイ! ボブ。ビールとフィッシュアンドチップスで乾杯したところじゃないか」
「探検だよ。ジョーイ! 食堂車見てみたいんだよ」
「オウ。そういうことか、探検ってご機嫌だよな」
赤ら顔の二人は立ち上がると、食堂車に向かう。
食堂車は軽食を中心に各国の料理が取り揃えられていて、二人の目を楽しませる。ボブは食べるのが好きなため、子供のように目をキラキラ輝かせながら軽食のメニューを物色する。
「ヘーイ! ジョーイ! 日本の料理もあるじゃないか」
「おーそいつはCOOLだな。たしか日本の料理は太らないんだって? ボブにぴったりじゃねえか」
ジョーイはボブの出っ張ったお腹を叩いてHAHAHAと笑い声をあげる。
「お、このテンプーラってのがうまそうだ。どれ一つ頼んでみるぜ」
ボブはシュリンプのテンプーラを注文し、しばらく待つとカラリと揚がったシュリンプのテンプーラが五本、皿に乗せられて店員から手渡された。
さっそくボブはテンプーラを食し、じっと様子を見守るジョーイに感想を述べる。
「ヒュー! ジョーイ! こいつはうめえぞ。これで太らないってんだからすげえぜ!」
「そうか。よかったなボブ」
ボブは追加で他の種類のテンプーラも頼み、料理を包んでもらって二人は自分たちの座席へと戻る。
札幌についた後、地元のホテルに泊まった二人だったが、ボブが風呂あがりに体重計に乗った時、思わぬ事件が起こる。ヘルシーだと聞いていた日本の料理を食べまくったボブの体重は増加していたのだった……
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