第123話 外伝28.1953年頃 四皇帝会談
――1953年頃 アメリカ ワシントン ホワイトハウス 米大統領
アメリカ大統領は歴史的な行事になるであろう偉大な会談の自国開催を勝ち取ったが、いざ会談が目前となり緊張でどうにかなりそうな気分だった。補佐官へ何度も「到着はまだか」と問いかけ、自身のネクタイを何度も鏡でみる。
アメリカのワシントンでは歴史的な会談が実施されようとしている。きっかけは、東京を訪問したオーストリア連邦皇帝の発言だった。オーストリア連邦皇帝は日本の天皇陛下との会席でとある発言をする。
「一度、四人の皇帝が集まり会食を行いたいですね」と。これに、日本の天皇陛下も「それはおもしろそうですね」と答えたことから日本の宮内省が動き始め、四皇帝による会食の実現を模索し始める。
四皇帝とはオーストリア連邦皇帝、日本の天皇陛下、エチオピア帝国皇帝、満州国皇帝の四人になる。身分上、世界の世俗権威の最高峰に位置する地位が皇帝で、四人が揃って会食を行う行事が計画されると世界中の注目を集める。
日本の宮内省は三か国の同等組織へ打診を行い色よい返事を得ることが出来たので、本格的に会談実現へ向けて動き始めた。
宮内省から何度も発言されたことは「政治的な要素を一切排除する」ということだった。そのため、会談の開催は第三国で行うことで四か国の同意が取れる。では、どこでこの偉大なる会談を開催するのか……まず手をあげたのはイギリスだった。
それに追随するように、アメリカ、イタリア、フランス、カタルーニャ、スウェーデン、ロシア公国が手を上げる。
しかし王室があるイギリスとスウェーデンは自国開催となると、王室が参加することが予想され候補から漏れる。同じ理由で公爵がいるロシア公国も外された。
イタリアはバチカンのおひざ元ということもあり、こちらも外された。イタリアは四皇帝が集まるのだから、ローマ教皇にも参加してもらおうとアピールしたのだが、主旨が変わってしまうためあえなく却下される。
これで残った国はフランス、カタルーニャ、アメリカの三か国になった。
宮内省が重要視していたのは「政治的な要素を一切排除する」こと以外にももちろんある。それは「安全性の確保」だ。当たり前といえば当たり前のことだが、皇帝に万が一のことがあってはいけない。
今回の会談は護るべき人物が多いのだから、警備能力が問われることは必須事項というわけである。
残った三か国は全て警備能力に問題はなかったが、アメリカはこうアピールした「四皇帝のいらっしゃる大陸とは別の大陸で開催することが、中立性の担保になるのではないだろうか」と。
これに宮内省は一定の理解を見せる。フランスとカタルーニャはオーストリア連邦に近いし、同じヨーロッパにある国である。結果、宮内省はアメリカが一番中立性を担保できると判断しアメリカでの会談の開催が決定したのだった。
開催が決定してから、四皇帝のスケジュールを合わせるとともに、アメリカでは開催の準備に大忙しとなる。特に警備は軍事出動してまで安全を担保するとアメリカは発表し、万全の体制を築き開催に望むこととなる。
そしていよいよ本日、各国から皇帝が到着するのだ。
大統領はホワイトハウスから空港に向かう。彼は道中の車中でも落ち着きがなく、大統領補佐官に何度も話かけていた。
「補佐官、いよいよだな」
「はい。大統領。お気分はいかがですか?」
「非常に緊張しているよ。特にオーストリア皇帝と日本の天皇陛下は別格だ……」
アメリカ大統領から見たオーストリア皇帝と日本の天皇陛下は甲乙つけがたい。オーストリア皇帝は今のオーストリア連邦形成のきっかけをつくった皇帝として国民からの人気は絶大だ。オーストリア皇帝の地位は古く、諸説はもちろんあるが、カールの戴冠までさかのぼることが出来る。
カールの戴冠とは、西ローマ帝国の皇帝位をフランク王国のカールが継承した儀式のことである。ここからさらにさかのぼるとローマ皇帝にまでさかのぼることができる。ローマ皇帝といえば、紀元前27年から始まった。
もしこれをトータルでみると、紀元前27年から現在にまで続く皇帝位と見ることも可能なのだ。再度になるが、アメリカ大統領個人が考えている事であり、諸説はある。
キリスト教的世界出身のアメリカ大統領からすればローマ皇帝位というのは格別の尊い地位に思える。
一方の天皇陛下であるが、こちらもすさまじい。日本の臣民からの人気はオーストリア皇帝と同じく絶大なものがある。「天皇」という称号が定められたのは七世紀ごろで、「大王」を名乗っていた時代までさかのぼると四世紀ごろまでさかのぼることができる。
それより以前の「大王」は実在が疑問視されている人物もいるので確かではないが、短く見積もっても五世紀初頭から現在まで「男系子孫」をずっと繋いでいるのだ!
他にここまで長く「男系子孫」を繋いだ王侯貴族は例を見ない。天皇陛下の「血」とはアメリカ大統領にとっても他に類を見ない尊さを感じることなのであった。
そういった意味でオーストリア皇帝と天皇陛下は甲乙つけがたいと彼は思っている。
アメリカ大統領は四皇帝のエスコートをガチガチになりながらもこなし、いよいよ会食のご案内にと待合室に顔を出すと……
オーストリア皇帝の待合室に日本の天皇陛下がご同席している! これを一緒にご案内しろというのかブラザー! 大統領は心の中で独白し、補佐官や多くのボディガードと共にお二人を会場までご案内するも右手と右足が同時に出ていたという……
この時の大統領の写真は、アメリカの大手新聞各誌で掲載されるや世界各国の新聞に拡散する。
大統領が緊張し過ぎて足と手が同時に出ている姿を失笑する者はごく少数で、むしろホスト役をしっかり務めた大統領を称える声が多数を占めたという。
その時のインタビューを受けた大統領は補佐官を通じてインタビューに応じ、このような言葉を残している。
「あの時は大統領選挙の結果を待つ時より緊張した者だよ。何しろお二人を同時にご案内したのだからね……」
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