第121話 外伝26.1950年頃 南部アフリカ問題

――1950年頃 イギリス ロンドン

 イギリスはポルトガルからの打診を受け、かなり戸惑いを見せていた。独裁政権下であるポルトガルは、イタリアのファシスト政権を見習い植民地解放政策にすぐ舵を切った。

 東南アジアの植民地である東ティモールもすぐに独立を認めたし、オランダが東南アジアで没落していくのを尻目にポルトガルは元々植民地で所持していた東ティモールだけでなく、西ティモールも勢力圏に置くことに成功した。

 日本やイギリスの植民地政策を見習い、現地を経済発展させることに注力し利権を確保した上に、現地住民からも高い支持を得ることにも成功している。ティモール島におけるポルトガルの信用は相当に高くなった。

 

 この結果を受け、ポルトガルは南部アフリカにある植民地――アンゴラについてイギリスに相談を持ち掛ける。ポルトガルは南部アフリカのおかれた状況を正確に把握しており、イギリスを驚かせる。

 イギリスとフランスは西アフリカ、これにベルギーも加えて中部アフリカにおいてそれぞれ大きな連邦国家を作ろうと長い時間をかけて準備を行っている。

 何故このような手間のかかる連邦国家を準備しているのかというと、イギリスとフランス自身が巻いた種であるが、部族間の対立を煽り植民地支配を行った結果、イギリスとフランスという支配者が退き独立すると、西部アフリカも中部アフリカも途端に戦争状態になってしまう危険性が非常に高いからだ。

 だから、初等教育事業を含め各種インフラの整備、産業の育成……特に農業に力を入れじっくりと独立に向けて動いている。

 

 南部アフリカは南アフリカ共和国とその北部にある南ローデシアを除き、西部アフリカと南部アフリカに似た状況であろう。唯一例外はベチュアナランドと呼ばれる地域くらいだろうか。

 ベチュアナランドは南アフリカ共和国の北部アンゴラの東部にある地域で、比較的治安が安定している。

 

 話をポルトガルに戻すと、ポルトガルは自国の植民地であるアンゴラを含め、イギリス植民地――イギリス領南西アフリカ、ベチュアナランド、北ローデシア、ニヤサランド、南アフリカ共和国にある飛び地……レソド、スワジランドを一つの連邦として独立させないかと提案してきたのだった。

 イギリスはフランスやベルギーと現地の利権調整をしてきた実績があるから、ポルトガルは利権についてイギリスの提案をよほどの項目がない限りは丸飲みするとまで言ってきた。

 

 一つだけポルトガルがつけた条件は、日本をオブザーバーとして加える事だった。ポルトガルが信頼を置いているファシスト政権下イタリアは日本と非常に友好的に接している。

 その点に目をつけたポルトガルは、日本がオブザーバーとして入るなら上手くことが運ぶと踏んだのだろう。それに、イギリスが東南アジアにおいて日本と共同で植民地独立政策を実施し、成功した実績ももちろん加味している。

 

 これに対し、イギリスは日本へ連絡を行い日英間で外相級の会談をここロンドンで、急きょ実施することになった。

 

「……というわけなのですよ。田中卿……」


 ロンドンに急ぎ訪れた田中外務大臣はイギリスの外務大臣からポルトガルの提案について説明を受ける。

 イギリスは日本との会談後、ポルトガルへ回答を行うと田中外務大臣に告げる。

 

「なるほど……日本としては南部アフリカ連合? 連邦? の成立へご協力することは問題ありません」


 日本は既に中部アフリカ、西アフリカの二地域でオブザーバーとして活躍している。それが南部アフリカに拡大されると考えれば予算はより必要になるだろうが、問題はないだろう。

 田中はそう考えていたが、南部アフリカは他の二地域と違い懸念点がある。

 

「ありがとうございます。しかし、田中卿もお気づきのことですがイギリスはあえて南部アフリカに手をつけていなかったのです」


「はい、おっしゃることは理解しています。効率を考えますと中部アフリカでの独立準備が始まった時点で、南部アフリカにも手を出したいころどですね。しかし……」


「そうです。南アフリカ共和国を考慮し手をつけておりませんでした」


 南アフリカ共和国はその北部にある南ローデシアと共に、元はイギリスの植民地だったが、独立し共和国となった。イギリスは元植民地国家をイギリス連邦として連邦の元での独立を認めてきているが、この二か国は異なる。

 イギリス連邦の枠外で彼らは独自に国家運営しており、場合によってはイギリスとの対立も辞さない。

 元々南アフリカ共和国はイギリスと親密な関係だったが、イギリスの方針転換があり関係性は冷え込む。南アフリカ共和国は白豪主義国家であり、白人とその他で明確に人種差別を行っている。

 イギリスは国家戦略上「民族平等」に舵を切ったため、南アフリカ共和国とたもとを分かつことになった。

 

 南アフリカ共和国を取り囲むように、南部アフリカ連邦を成立させた場合かの国から反発が来るのではないだろうか? それが二人の懸念している事となる。

 

「南部アフリカ連邦は西アフリカと同様に民族の協調を図り、平和共存を目指すのですよね?」


 田中が確認するようにイギリスの外務大臣に問うと彼は大きく頷きを返す。

 

「もちろんです。イギリスの目算では南部アフリカが形になるまでに南アフリカ共和国が先に生き詰まるとみています」


「なるほど……」


 田中外務大臣は少し感嘆する。イギリスも日本と同じで南アフリカ共和国は行き詰まりを見せ、方針転換を行うと見ているのだ。現に同じ白豪主義を取っていたオーストラリアは白豪主義を捨て、周辺国との関係改善を図った。

 南アフリカ共和国とオーストラリアは事情が違うが、外部的に抱えている問題に大差はないだろう。

 行き詰まった南アフリカ共和国が外部攻勢に打って出る可能性もあるだろう。袋小路に陥った国家は得てして戦争を行い打開策を模索しようとする。しかし、南アフリカが外部攻勢に打って出たところでさほど問題ではないと田中は考える。

 懸念点は南アフリカ共和国が暴発した時に、イギリスが対決姿勢を見せるかどうか。

 

「日本としては、一点だけお約束していただきたいことがあります」


 田中は意を決し、イギリスの外務大臣をじっと見据える。

 

「分かっております。南アフリカ共和国が戦争という手に打って出た場合、イギリスは南部アフリカを全力で防衛します」


 田中が発言する機先を制して、イギリスの外務大臣ははっきりと「南部アフリカを防衛する」と言い切った。

 

「了解いたしました。日本はオブザーバーとして南部アフリカ成立に協力いたします。実務者レベルの会談を実施いたしましょう」


「田中卿。ありがとうございます」


 二人は立ち上がって、がっちりと固い握手を交わす。

 こうして南部アフリカ連邦の成立に向け、準備委員会が発足することになった。

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