第120話 外伝25.1960年頃 南極
南極大陸は先進国間で領土主張を行わず、国際的な観測所が設置されている特殊な地域になっている。「先進国間」では領有権凍結で合意が取れているのだが、南米の一部国家は未だに領有権を主張している。
といっても南米諸国に領有する実行力があるのかというとそうでもないため、南極大陸はこのまま「所属国無し」の大陸になるだろうと言われているのだった。
南極大陸は大きく分けて南部のロス海沿岸部、北東部、北西の南極半島の三か所に多くの観測所が軒を連ねていて、特に南極半島は南極圏の外にあり気候もツンドラ気候と、他の南極の地域に比べれば温暖な地域になる。
南極半島は夏の間に氷が解け、一部地面が見えるほど暖かくなる。夏にはこの地で産卵するペンギンが集まってきたリして、観測所に勤める人々の目を楽しませていた。
日独墺の合同観測所が南極半島に置かれており、ドイツ人スタッフは今日も作業に
彼は日本人の時間に正確なところを好ましく思っており、現に観測所の日本人スタッフも時間に厳しい。オーストリア連邦のスタッフもたまたまオーストリア州出身のドイツ系だったので、時間にうるさいほうだった。
それが幸いしたのか、彼はこの観測所で気分よく仕事が出来ていた。やはりドイツの友人は日本とオーストリア連邦だな……彼は性格的にも近い日本とオーストリア連邦のスタッフに親しみを持っていた。
しかし、彼の思っていた日本人像はこの日突き崩されることになる。日本人とは時に極限地域で謎の遊び心を見せるのだと……それも極めて真剣に……ジョークのレベルを超えていた。ドイツ人スタッフにとってはまさに衝撃的だったのだ。
普段、真面目で穏やかな日本人スタッフが突然やたらハイテンションで、彼と同僚のオーストリア連邦のスタッフに声をかけてきたことから話は始まる。
「フリッツさん! ウルリッヒさん! サッカーしましょう!」
朗らかな顔で日本人スタッフはドイツ人スタッフのフリッツとオーストリア連邦人スタッフのウルリッヒを誘ってくる。
一瞬何を言っているのか分からなかった二人は、思わず日本人スタッフに問い返す。
「ええと、何をするつもりですか?」
「サッカーですよ! サッカー! アメリカ人がヘーイ! ボールで遊ぶと楽しそうだぜとか陽気に言ってるんですよ。私達も乗っかりましょうよ!」
アメリカ人……彼らなら言うかもしれない……ドイツ人スタッフのフリッツは額に手を置き、ため息をつく。
真面目な日本人に変な事を吹き込みやがって……彼はこの時までそう思っていた。
「ボールが凍りませんか?」
オーストリア連邦人スタッフのウルリッヒは冷静に日本人スタッフへ懸念点を述べる。
彼はサッカーの危険性について説明を始める。いくら夏とはいえ、まがりなりにもここは南極である。ボールが凍ってしまうと硬くなり、当たると怪我をしてしまうだろうと。
しかし、日本人はそんなこと想定内といった風に肩を竦める。
「大丈夫です! その為に特殊なボールを本国から取り寄せていたのです! あと、皆さん必ず毛皮のコートを着てくださいね! ボールが当たると痛いですから!」
わ、わざわざ本国から取り寄せていただと! ドイツ人スタッフのフリッツは気が遠くなる思いだった……
厚手のロングコートを身にまとった三人は日独墺の合同観測所から外へ出ると、十五分ほど歩く……すると彼らの目に人だかりが見えて来た。
人数はおよそ二十人近くいるだろうか。ドイツ人スタッフのフリッツが日本人スタッフを見ると、彼は大きく手を振って彼らに挨拶をしている。
「やあ。ジョーイ! 連れて来たぞ! サッカーやろうぜ」
日本人スタッフはアメリカ人スタッフらしき人物の肩を叩く。
「ヒュー! マジかよ! 本気でやるのか。楽しそうだぜ!」
アメリカ人スタッフは感心したようにはしゃぎ始める。
人だかりの中央に立った日本人スタッフは集まった各国のスタッフに向けて大きな声で語りかける。
「みなさん! お集まりいただきありがとうございます! 日本が開発した特殊なサッカーボールを準備してます。安全安心! サッカーしましょう!」
「おおお! マンマミーア」
陽気なイタリア人が歓声をあげる。
「よおし。やるか」
ウオッカを手に持つソ連人が足元がふらつきながらもやる気を見せる。
な、なんだこの空気は……ドイツ人スタッフのフリッツは
しかし、わざわざ極地でやらなくても……最初は渋っていたフリッツだったがサッカーを始めると一番楽しんでいたという……
――四十年後 フォン・ブラウン月面基地
フォン・ブラウン月面基地には日独墺共同の研究施設がある。フォン・ブラウン月面基地は日本が中心となって建造した世界初の地球外の基地になる。
ドイツとオーストリア連邦も資金面、技術面で日本へ協力しており、三か国合同の研究施設があるのはそういった事情がある。特にドイツは宇宙船の開発にも携わり、日本の宇宙開発において欠かすことのできないパートナーだ。
ドイツ人スタッフのパウルは今日も作業に
彼は日本人の時間に正確なところを好ましく思っており、現に研究所の日本人スタッフも時間に厳しい。オーストリア連邦のスタッフは南欧出身らしく、陽気な人当たりのいいスタッフだった。
気の置けないメンバーと共に仕事をするのは非常に好ましい……彼は常日頃そう思っていた。やはりドイツの友人は日本とオーストリア連邦だな。
しかし、彼の思っていた日本人像はこの日突き崩されることになる。日本人とは時に極限地域で謎の遊び心を見せるのだと……それも極めて真剣に……ジョークのレベルを超えていた。
「パウルさん、ミヒャエルさん、サッカーしましょう!」
朗らかな顔で日本人スタッフはドイツ人スタッフとオーストリア人スタッフを誘ってくる。
「マサさん、月の重力でサッカーをやるとボールがマンマミーアですよ」
「大丈夫です! ちゃんと対策は取ってますよ!」
ドイツ人スタッフは
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