第118話 外伝23.ミレニアムジャパン 家族旅行
東京都江戸川区東京メガフロートに住むとある五人家族は、東京駅でリニア新幹線を待っていた。
新幹線の歴史を振り返ってみると、高速鉄道の敷設が日本政府から発表され国鉄が工事を開始する。そして高速鉄道用に特別な技術が開発され、新幹線0系電車が完成する。
0系電車はなんと時速二百キロを超える速度で走ることが出来た。
東京から大阪間で新幹線が走り始めると、その後福岡、仙台と路線は拡大していく。国鉄はJRに変わっても新幹線は多くの乗客を乗せて走って来た。
遠い地域間では飛行機が主流であったところ、国とJRはリニア新幹線の敷設を発表し、東京と大阪を直接繋ぐ新しい路線を発表。東京大阪間は既存新幹線で三時間かかっていたところが、新路線リニア新幹線では一時間未満となる。
これに飛行機会社は恐れおののいたが、JRの攻勢はこれだけで収まらなかった。
JRは新幹線の既存路線をリニア新幹線に交換していったのだ。まずは東京大阪間の既存路線を改装し、次に福岡大阪間、仙台東京間……そしていよいよ、飛行機会社を恐怖に陥れる路線の敷設が始まる。
JRは仙台から札幌まで路線を引き延ばしリニア新幹線で繋ぐ計画を発表。そしてついに1999年、仙台札幌間にリニア新幹線路線が完成をみる。
この新路線は、東京札幌間を飛行機と同じ所要時間で結ぶ。利用者にとっては喜ばしいことではあったが、飛行機会社は大幅な値下げで客を取り込むことを模索する。その結果、飛行機運賃の大幅下落が起こり、利用者はより手軽に飛行機に乗ることができるようになった。
とある五人家族の両親は飛行機で札幌まで行くことを考えていたが、子供たちがリニアで行きたいとせがんだため苦労してリニア新幹線の指定席を予約し本日を迎えたというわけだ。
東京駅には多数のリニア新幹線がひっきりなしに停車し発車している。五人家族が待つホームは北日本新幹線のホームになり、子供たちはリニア新幹線が駅に入って来るたびに歓声をあげていた。
いよいよ家族の乗るリニア新幹線が到着する。このリニア新幹線は綺麗なメタリックレッドで塗装されていて、一目見ると北海道行きだと分かるようになっている。
長男を先頭に真っ赤なリニア新幹線に乗り込んだ五人家族は、自分たちの指定席を探し着席する。
リニア新幹線が走り出すと、旧式の新幹線にしか乗った事がなかった母親も、子供たちと同じように流れていく景色の余りの速さに驚いた様子だった。
「父さん、リニアはすごいね!」
興奮した様子で長男が父へ外の景色を指さすと、ゆっくり缶コーヒーを飲んでいた父の目じりが下がる。
夏休みの……それも週末のリニア新幹線は人気路線で、ましてや新路線である北海道行きとなると指定席を取るのに父は非常に苦労したのだ。
息子の笑顔を見ると、父は頑張った甲斐があったと胸を撫でおろす。
「父さん、リニアって外国でも走っているの?」
長女が窓から見える景色から目を離さずに父に問いかける。
リニア新幹線の技術は外国へも輸出され始めており、ドイツのベルリンからフランスのパリを経由し、ロンドンに至るリニア専用路線が開通したニュースを父は思い出す。
「ああ。ヨーロッパでもリニアは走っているよ」
「すごいね! 父さん! こんだけ早かったら飛行機は要らなくなるのかな?」
今度は無邪気に長男が父に声をかける。もちろん視線は窓の外に固定されたままだ。
リニアは海を通れないし、国内の航空機路線が不振で廃止されるという話も聞いたことが無い。
「リニアは海を渡れないからね。飛行機は無くならないと思うぞ」
「そっかー。樺太からロシア公国へ鉄道が通っていても飛行機は必要なんだねー」
「そうだぞ。飛行機だけじゃなく船もロケットも生活には欠かせないものなんだぞ」
長男が樺太からロシア公国に伸びる路線のことを知っていたことへ父は少し驚くも、長男が良く勉強しているなあと考えすぐに顔が緩む父。
長男のいう通り、樺太と大陸の間にある間宮海峡の最狭部に海底トンネルがあり、樺太側からトンネルを抜けるとロシア公国になる。
日本唯一の外国と直接繋がる路線のため、入国管理局が目を光らせており、お互いの国の最寄り駅では厳しい入国審査が行われるようになっている。
この路線は樺太南部の島内最大の人口を保有する豊原から出発し、ロシア公国の最大都市バハロフスクまでを結ぶ路線になっている。開通式にはロシア公国と日本の首相がバハロフスクで開通式を行ったことは父の記憶に新しい。
「そうそう。父さん、ロケットといえば……宇宙コロニーなんだけど……」
「宇宙コロニーかあ。水中都市は……」
「父さん、水中都市よりいまは宇宙コロニーに興味があるんだ」
建築会社で働く父は長男の変わりように少し固まってしまう。最初は水中都市に興味があった長男……しかし、今ではすっかり宇宙の虜になっている……
「そ、そうか……父さん、水中都市も夢があっていいと思うんだけどなあ……」
「父さん、僕が大人になる頃には軌道エレベーターは完成しているのかなあ?」
む、無視された! 父さん悲しい! と父は心の中で独白するが、息子の質問へ律儀に答える。
「そうだなあ。あと十年? それとも二十年かかるのかなあ? 父さんが生きているうちに完成してくれるといいな」
「父さん、僕が大人になる頃に、軌道エレベーターが完成したらさ。みんなで軌道エレベーターに乗ろうよ。僕がお金を出すんだ」
「そうか。その時は頼むぞ。ありがたく招待されるからな」
思わぬ長男のストレートな言葉に撃ち抜かれた父は、家族思いの長男に感動し目じりに涙まで浮かべてしまう。
父は息子に見られぬよう、窓の外の景色を指さし、流れて行く景色を眺める。
二人の様子を最初から最後まで聞き耳をたて余すことなく聞いていた母は、クスッと笑うと父の手を握り、彼の横顔をそっと見るのだった。
彼らを乗せたリニア新幹線は、早くも仙台駅に到着しようとしている。
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