第117話 外伝22.ミレニアムジャパン メガフロート
――2000年 「東京メガフロート」 とある一家
東京湾は川崎市から木更津市に伸びる東京アクアラインで利便性の強化と都市人口の拡散を計ったが、東京アクアラインより大きな注目を集めたのは東京湾東北部に建設された「東京メガフロート」である。
「東京メガフロート」はメガフロートの名の通り、浮体ブロックを繋ぎ合わせた人工的な浮島になっており、高層ビルの建築は制限されているが、一般的な住宅や低階層マンションの建築ラッシュが続いている。
「東京メガフロート」は千葉県の沿岸地域にまで及んでいるが、市政は東京都江戸川区で落ち着いた。どこの管轄にするか、建設前の段階から揉めていたが江戸川区南方の葛西から鉄道と道路が伸びていたことを主張した江戸川区が管轄を勝ち取った。
「東京メガフロート」が完成してから五年経過したが、人口が爆発的に増えており元から高かった地価がさらに高騰。結果、江戸川区をはじめとした「東京メガフロート」からほど近い沿岸地域の地価に比べ、二倍から三倍の地価にまで上昇している。
地価の高騰は今後も予想され、今のうちにと考える家族や投資家たちがこぞって不動産を購入している状況だ。
現在、江戸川区のおよそ半分くらいの広さを誇る「東京メガフロート」であるが、需要の増大に押されて面積の拡大を行うことが決定している。「東京メガフロート」と隣接する形で建設される新メガフロートは千葉県の管轄になる予定だ。
千葉県は千葉県メガフロート市と新メガフロートを一つの市として編成することを希望しているそうだ。
新メガフロートの面積は「東京メガフロート」の二倍を予定しており、さらに拡大する計画まで上がっている。
話を「東京メガフロート」に戻すと、現在この地区の人口は十万人を超える。保育園、幼稚園、小学校、中学校、高校まであり、地域に住む子供たちが学業に励んでいる。
電車はJRが葛西臨海公園に接続された路線と、江戸川区を南北に貫く地下鉄でJR小岩駅まで接続する路線にその路線から途中で分岐し都営新宿線に乗り入れる路線と都心方向に豊富な路線がある。新メガフロートが完成した後には千葉方面への路線拡大も予定されている。
「東京メガフロート」に住むとある一家はこれから夕食の時を迎えていた。建築会社で勤務する父と看護師の母、小学生の長男と長女、保育園に通う次男と良くある五人家族だ。
彼らは家族五人で夕飯を囲みながら、テレビをつけて談笑している。
テレビには半世紀ほど前に流行したちょび髭の男を模した俳優が登場する洗濯機のCMが流れていた。オーストリア連邦出身のちょび髭の男は様々なパロディに使われ二十一世紀を迎えた現在でも世界的に有名な人物の一人となっている。
CMが終わり、ニュースに切り替わると長男が何やら興味を惹かれた様子で父親に話しかける。
「父さん! これって水中都市の話だよね?」
長男はテレビ画面に踊る「水中都市」というテロップを指さす。
「ああ。水中都市はまだまだ実験段階だぞ」
長男がキラキラした目で父を見つめると、父は有頂天になって自身の建築会社も参画しているプロジェクトを分かりやすく説明し始める。
水中都市計画は宇宙開発と同様に、新しい人類の生存権を模索する大プロジェクトの一つに数えられている。メガフロートもかつてはこのプロジェクトの一角だったのだが、実用化されたため現在ではプロジェクトから外れている。
このプロジェクトは現在大きく分けて三つのプロジェクトがある。月に都市を作るフォン・ブラウン市計画、宇宙空間に地球と同じ重力を持ったシリンダー型のコロニーを作る計画、そして水中都市計画。
三大プロジェクトには多くの公的資金が投入されており、研究開発に日々邁進しているのだ。
水中都市計画は日本近海の大陸棚へ居住空間を作るプロジェクトで、千葉県沖合に実験都市が建築中であった。
「父さん。メガフロートに僕たちが住んでるし、水中都市もすぐに建築されるのかな? 楽しみ!」
長男は無邪気に父へ笑いかけるが、父は息子にどう伝えるべきか少し悩む……メガフロートと水中都市に必要な技術力は天と地ほどの差がある。宇宙のコロニーは別格として、水中都市を実現することと月に都市を建設すること……どちらが困難かと言われると難しい。
もちろん、宇宙空間と水中では比べ物にならないほど、水中の方が環境は良い。しかし、メガフロートレベルで実用化となると難しいだろう……
実験空間として水中「基地」を建築するのならば、まだしも多数の人間を居住させ、地上との交通網も確保し……安価な輸送手段も準備せねばならない……コストが見合わなくて結局中止になるかもしれないなあと父は考える。
メガフロートで事足りるものな……しかし、父はこうも考える。
未知の技術への探求心こそ日本の素晴らしさなのだと。
結局コスト超過で見合わないにしても、必ず水中になんらかのものは建設するだろう。それが日本。それこそが日本なのだと。
「そうだな……きっと近いうちに行けるようになるさ」
父は長男に微笑みかけると、長男は満面の笑顔で頷きを返すのだった。
――翌日
父は長男のために水中都市構想が分かりやすく書かれた小学生向きの本を買って、仕事から帰路に向かう。帰宅途中の電車で、本を受け取った時の喜ぶ息子の姿を想像し、彼の顔が締まりなく緩む。
しかし、父の思惑は帰宅し長男の様子を見た途端に
彼の妻から買ってもらったのだろうか、長男は長女と熱心に本を読んでいる。本を読むことは喜ばしい事なのだが……彼らの読む本は……
――フォン・ブラウン市構想と軌道エレベーターについてだった。
あれ? 昨日、水中都市に興味あるって言っていたよね……父さんの仕事に興味を持ってくれたんだよね……父は不安になりつつも、長男に包みに入った「水中都市」について書かれた本を手渡す。
喜んで本を受け取り父へお礼を言った長男は。さっそく包みを開くと中から出て来た本のタイトルを見ると一旦自室に戻って行った。
しかし、戻って来た長男の手には何も持たれておらず、再び長女と共に先ほどから読んでいる本に見入ってしまった……
「父さん、後で読むね。あ、フォン・ブラウン市について教えて欲しいんだ!」
長男はキラキラした目で父を見つめ、父はよろめきながらもなんとか長男へ頷きを返し、ヨロヨロとした足取りで風呂へ向かって行った……
※暇で暇でしょうがねえなあ、読んでやるかって方はよろしければどうぞ。
完結済み作品です。
・無双将軍の参謀をやりながら異世界ローマも作ってます
https://kakuyomu.jp/works/1177354054882285131
歴史を絡めたファンタジーものです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます