第115話 外伝20.西アフリカ
――1951年 西アフリカ ラゴス 藍人 過去
藍人は現在も名目上はイギリス植民地となっている元「英領ナイジェリア」の最大都市ラゴスを訪れていた。元「英領ナイジェリア」を含むこの地域は西アフリカと呼ばれる地域になる。
西アフリカで独立国はたった一つしかない、それは元アメリカ植民地のリベリア共和国だけだ。独立国と言えば、ドイツから独立したカメルーンがあるが、この国は西アフリカに隣接するものの、中部アフリカに含まれる。
西アフリカにおいて独立国リベリアを除いた地域は全て列強の植民地となっていたが、英仏が中心になり西アフリカを一つにまとめ独立させる計画が実施されている。国名は西アフリカ合衆国または西アフリカ連邦のいずれかを予定しているとのことだ。
アフリカ諸国に対する列強の植民地政策は「分断統治」だった。列強は民族、宗教、身分などによって分断し、互いの対立を
低い教育レベル、搾取する政策、民族同士の対立を煽る政策……その全てがアフリカの植民地に独立させることを困難にしていた。
独立させようと思えば、独立させることは今すぐにでも可能だ。しかし、このまま個別に独立させてしまえば、独立した国家が平和裏に発展することは不可能だと誰の目にも明らかで、独立した国で内乱が発生したり、独立した国同士で戦争をすることが確実視されている。
どうすればアフリカの平和的発展が成すことができるのか……そのヒントとなったのがオーストリア連邦であった。
オーストリア連邦は連邦成立前に民族間の対立が激しく、旧オーストリア=ハンガリー帝国は分裂の兆しを見せていた。しかし、オーストリア連邦として一つにまとまり「民族平等」を国是とし、それぞれの州に自治権を与えつつもオーストリア連邦としてまとまることで大きな発展を遂げた。
西アフリカでもオーストリア連邦を参考に「上」からの独立準備を行うことが決定する。史上初の試みになるが、現状西アフリカの指導者のみに任せていると、平和的発展を行える可能性は皆無である。
こうなってしまった責任は英仏にあるのだが、過去はやり直すことが出来ない。こうして西アフリカの独立準備が始まる。
英仏は強権を振りかざし、民族、宗教の地域状況を加味して、慎重に西アフリカの州分けを行った。州分けを行った後、ラゴスに準備委員会を設置し各州の進捗状況を監視することとなる。
当初英仏が独立準備を全て執り行う予定であったが、被植民地住民の反発は激しく上手くいかなかった。そこで、第三国であり非白人国家である日本、イスラム教を信仰するトルコ人有識者、同じアフリカのエチオピア帝国からキリスト教徒の知識人に協力を仰ぐ。
彼らは英仏の依頼に快く応じ、カメルーンでドイツが参考にして順調に進んでいる日本の教育プログラムを採用し、彼らが西アフリカの教育を受け持つことになった。
日本はそれに加え、現地の産業育成プログラムにも協力を行い、英仏は産業育成と治安維持、ラゴスの独立準備委員会を受け持つことになる。
藍人は西アフリカから輸出できる品目を調査し、日本に輸入できる商品をさがしに西アフリカにやって来たというわけだ。西アフリカとの貿易は日本でも奨励されており、現地での通訳や護衛などの補助を日本政府が行ってくれる。
ラゴスに入国した藍人を現地の英国人官僚と通訳が迎え入れてくれる。彼は現地のホテルへ案内され、ホテルのロビーに隣接した落ち着いた雰囲気の喫茶店でアフタヌーンティーをいただくことになった。
「藍人さん、ようこそラゴスへ」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
二人はお互いにかたい握手を交わしたあと、ゆったりとした一人掛けのソファーに腰かける。通訳も彼らが座ったのを見た後に腰をおろす。
すぐに紅茶セットとスコーンが運ばれてきて、藍人の目を楽しませた。このホテルは英国式ホテルらしく、本格的なアフタヌーンティを出すのだと英国人官僚が笑顔で藍人に語ってくれる。
「もっと殺伐とした雰囲気を想像していたのですが、ラゴスは落ち着いているのですね」
「いえいえ。今年になってようやくですよ。昨年までは各地で鎮圧部隊が活躍していましたから」
「そうなんですか! 街が破壊された跡も道中見当たりませんでしたし、街の様子からは去年まで暴動があったなんて信じられませんね」
「日本人の方が来てから、英仏が今までと違うと認識してくれたのでしょう。ひと昔前ですと、アジア人を英仏が迎え入れるなんて想像もできませんでしたが、今は違います」
「なるほど。上手く市民を説得できたってことなんですね」
アジア人である日本人やエチオピアの黒人宣教師を教育者に据えた英仏を見て、西アフリカの市民はきっといい意味で衝撃を受けたことだろうと藍人は思う。
英仏はこれまで口では政策の転換を口では説明してきただろうけど、口先だけで西アフリカの市民は何度も騙されてきたのだから、不信感が募り暴動に発展したんだろう。
英仏が言葉だけではないと示したのが、日本人やエチオピアの黒人宣教師なのだろう。彼らを見た西アフリカの市民は、英仏がこれまで実施してきた白人至上主義政策を一変したと、実感できたことだろうから。
「ようやく形になって来たとは言え、これから短くても十五年間。長ければ二十年以上独立準備が続きます」
「教育が行き届くまで、相当の時間がかかるのですね……」
「何しろインフラが全くない状態からですから……ありがたいことに日本企業も土木工事に多数参加していただいてます。産業育成プログラムであなたのような企業の方にも来ていただいてますし」
「いえいえ。私なんか……商品を育てることなんて、私には出来ません。私はただ商品を輸出し、輸入することが出来るだけです」
「せっかく作った商品も売る先が無ければ無駄になってしまいますよ。日本の方はどなたも謙虚なんですね」
英国官僚は紅茶を上品に口をつけると、肩を竦める。これに対し藍人は手を頭にやり、恥ずかしさを誤魔化す。
藍人が日本へ輸入を考えている商品は農作物である。西アフリカでは農業を中心に発展させていく方針で、コーヒー豆など商品作物の生産体制を整えているそうだ。
最も力を入れているのは、彼らが地産地消できる穀物類ではあるのだが……農業の近代化を行い食料自給率をあげていく。餓死する国民が出ない国をまずは目指し、同時に外貨獲得手段として商品作物も作っていく。
「きっと、上手くいきますよ」
藍人は心からそう願う。何年かかるか分からないが、きっと西アフリカは平和的に発展していくと彼は信じている。負の遺産は多大だが、きっと克服するだろうと。
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