第107話 外伝13.ソ連 ラートゥガ
――ソ連 とある大学 過去
ソ連現書記長であり、亡命時代はラートゥガ(虹)と呼ばれていた男の半生をまとめるべくソ連のとある大学で彼を呼びインタビューが行われようとしている。彼はロシア革命で頭角を現した指導者と親密な関係を築き、その後の革命が終わりソ連の成立に大きく貢献する。
全世界を敵に回し、元ロシア帝国領で他国の介入を招きながらも白軍を駆逐していく赤軍……極東地域に集結した白軍は日本とアメリカを呼び込み強固な防衛網を築き攻めあぐねたが、それ以外の地域はほぼソ連赤軍が占領することに成功する。
インタビューアーである初老の大学教授は書記長に質問をなげかける。
「同志は赤軍を指導しておりましたが、現ロシア公国を当時どう見ていたのですか?」
「白軍は当時まとまりを欠いていたのは教授もご存知のところと思います。赤軍と対立する者たちが白軍と呼ばれていましたので……」
書記長は過去を思い出すようにゆっくりと会話を始める。
「はい。白軍は民族主義者や旧ロシア帝国の貴族など白軍と呼ばれていても中身は別々の勢力でしたね」
「ええ。ですので、白軍の対立をあおりつつ各個撃破していけば事は足りたのです。もちろん列強の介入はありましたがね」
「なるほど。しかし極東に白軍が集合してしまいましたな」
「そうなんです。あれを裏で糸を引いていた国をご存知でしょうか」
「いくつか想像できる国はありますが……」
確信に迫る一言を投げかけられ教授は内心ドキリとしながらも書記長に応じる。
書記長は鋭い目をさらに細め、顎を撫でる。
「あの絵図を描いたのは日本ですよ。彼らの戦略は見事でした」
書記長はあの時日本が白軍を引き込めるだけ引き込んで極東に集合させたのだと言う。教授の目から見ると、イギリスが白軍を集めアメリカが白軍の内部対立を力で抑え込んだように見えたのだが……
日本はロシア革命が勃発するとすぐに白軍の脆弱性と赤軍の精強さを見抜き、防衛拠点を極東に絞り込んだ。イギリスとアメリカを巻き込み、極東へ白軍の防衛ラインを引く絵図を描き、白軍を各地で消耗させることなく極東に移動させたのだ。
空白地帯になった旧ロシア帝国領を赤軍が占領し、ますます巨大になっていく赤軍に対し、白軍は日英米によってバイカル湖西部に防衛網を築く。
「なるほど……日本は白軍に最初から赤軍へ勝つことをあきらめさせたというわけなんですね」
教授がなるほどといった風に頷く。
「そうです。普通はそのような戦略を取れませんよ。守らず捨てろなんて指示を……私はこの時、日本に驚嘆しました。それが亡命時代の動きに大きく関わってきます」
赤軍はウクライナやバルト三国を占領し、ポーランドとの戦争は敗れたものの極東地域以外は順調に占領を行っていく。ソ連は順調に動いていたが、ここで指導者が死亡し指導者の交代が行われる。
書記長は新指導者に排斥されロシア公国へ亡命することになってしまった。
「ロシア公国へ亡命を決めたのは粛清を恐れてでしょうか?」
教授の質問に書記長は頷く。
「はい。ただ当時、ソ連からの亡命の受け入れ先は正直……」
当時のソ連は全ての列強と対立しており、亡命者の受け入れは難しい情勢だった。
「ソ連の指導者が変わった途端に、ロシア公国が亡命者の受け入れと安全の保障を囁きましたね」
教授は当時の事を思い出し、書記長へ確認するように言葉を紡ぐ。
「それですよ。私は指導者が変わった刹那に亡命者の受け入れを表明したロシア公国からの反攻に賭けてみようと思ったわけです」
指導者が変わり即亡命の受け入れを表明したロシア公国。彼らの国是はソ連から自国の防衛にある。ソ連からの亡命者の受け入れを表明することでソ連を刺激することは確実なのだが、それでも亡命者の受け入れを表明してきた。
書記長はロシア公国の戦略に興味を持ったという。ロシア公国は書記長の反攻作戦に耳を傾けてくれるかもしれないと思った書記長はロシア公国への亡命を決意する。
ロシア公国に行ってみると、書記長の予想通りソ連からの亡命者によるソ連の転覆作戦へロシア公国が資金提供を行ってくれた。書記長はその資金を使い、ソ連にいる協力者を増やし、処刑されそうな粛清対象者を出来る限りロシア公国へ連れて来れるよう尽力した。
その結果、ロシア公国には赤の至宝を含む多くの実力者が集うことになる。
書記長は彼らのリーダー「ラートゥガ(虹)」として、ソ連へ反攻の機会を
ソ連は粛清と国外退去者(亡命者)が続出し、指導部の指導力は増したが反面人材が不足し始める。優れた戦略眼を持つ者や権謀術数を操る智者は少数ではあるものの指導部に所属していた。
しかし彼らは粛清を恐れ指導者へ迎合し、自らの意見を封じ込める。
ソ連の野心はフィンランドに襲い掛かるが、日英に
甘い果実……「ドイツ領東プロイセン」は西プロイセンがポーランド占領下にあるから容易く奪い取れると。
事実ドイツは東プロイセンへ軍を派遣する軍が無い状況で、ソ連は侵攻さえすればドイツ領東プロイセンを占領することができた。しかし指導部の慎重派は日独同盟を警戒していて、ドイツ領へ侵攻することには反対していたのだった。
当時の指導部でドイツを危険視するものは余りいなかったが、日独連合軍を警戒する者は多数派だった。
だから、慎重派の意見が取り入れられる情勢だったのだ。そこへ書記長の囁きが情勢をひっくり返す。
書記長の出した作戦はこうだ。
日独連合が反攻を行い、彼らと一戦し手強いならば東プロイセンから即撤退すればよい。占領中に東プロイセンへ共産党員を多数忍び込ませ、日独連合が東プロイセンを占領下に置いた後、機を見て内部から食い荒らす作戦はどうだと。
これに指導者が賛成すると、反対意見を述べる者は誰もおらず作戦は決行される。もちろん東プロイセンに配置される共産党員は書記長のシンパが多数を占めていたのだが……
「……というわけで、私は東プロイセンの共産党員を全て集合させソ連へと反攻作戦を実施したわけです」
「なるほど。そういった経緯があったのですか」
その後、反攻作戦に出た亡命者グループは西ソ連を建国し、書記長が代表者となる。東側に逃げ込んだ旧指導者の勢力は指導者が交代すると西ソ連に近寄り、ソ連は書記長のもとで統合されることになる。
「書記長。本日はありがとうございました」
教授は書記長に握手を求めると、書記長は快くそれに応じた。
「今後の研究に役立ててくださると幸いです」
「ところで書記長……ロシア公国が亡命受け入れを表明したのは……ひょっとして……」
「教授。恐らくあなたの考えていることと私の考えは同じです。あの国こそ、世界で一番研究し、警戒し、友人となるべき国ですよ」
書記長は国名を言いかけた教授の口を制し、二人は硬い握手を交わす。
※本文では書けませんでしたが、ネタバレしておきます。
書記長はトロツキー
前指導者はレーニン
交代後の指導者はスターリン
です。
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