第106話 外伝12.ドイツ陸空軍 過去

――中欧戦争中 とある軍医

 フランス・ベルギー連合軍がドイツ国内に侵入し、日本の支援を受けたドイツは急ピッチで再軍備を進めつつフランス・ベルギー連合軍へ反攻作戦を行っている。

 ドイツは日本へ技術協力を行っていたが、日本の技術力がドイツに追いつき、追い抜こうとしている情勢もあり、いつしか両国は共同開発を行うようになった。

 日本はドイツと異なり軍備制限をされているわけではなかったので、日独共同で戦闘機や戦車が開発されているが、名目上日本の戦闘機や戦車の開発と諸外国には銘打っていた。

 

 もちろん、これに気が付かない英仏ではなかったが、表立って反発することは幸い行われなかった。

 というのは、ドイツは軍備制限を順守しており、高性能な兵器を開発したとしても国内で制限された台数しか製造できず、また軍人の数も少なかったため軍備全体から見ると英仏が目くじらを立てる程ではなかったという背景がある。

 

 中欧戦争真っ只中、急降下爆撃航空団に所属するとある軍医は連日頭を悩ませている。爆撃機の性能にではない……日独共同開発した爆撃機「スツーカ」は非常に頑丈かつ優れたエンジンを持つ名機で、フランスの爆撃機に対し優勢な性能を持つ。

 爆撃機を支援する戦闘機についてもフランス戦闘機に対し相当優位に立っているから、フランス・ベルギー連合軍に対し有効な爆撃を行うことが出来ている。

 

 ドイツ軍はフランス軍に対し、爆撃機、戦闘機、戦車に至るまで全て優位な性能を持っている。ならば何の憂いもなく軍医は出撃出来ているはずだ。

 事実、不安を感じず出撃はできている。できているのだが、「回数」が問題なのだった……

 

 軍医の相棒の牛乳が大好きな男は隙あらば出撃しようとする。休めと言われても出撃する。牛乳を飲んで出撃してしまう。そのたびに軍医は襟首をつかまれ、この牛乳が大好きな男と共に出撃することになってしまう。

 「休ませてほしい……」軍医は何度か牛乳大好きな男へ提言するも、「問題ない。出撃だ」と彼は返すのだ。

 

 さすがに身が持たないとを上げた軍医は、上官へ牛乳好きの男の相棒を自分ともう一人追加してくれるよう訴えかけた。その結果、上官にこの二人の出撃回数が「異常に」多いことが発覚する。

 上官は彼ら二人の出撃回数が命令通りの回数になるよう監視することを決める。残念ながら、軍医の希望である「一人追加」はかなえられることはなかった……

 

 上官は見込みが甘かったのだ。もちろん軍医はこうなることを分かっていた。だから「一人追加」を望んだのだ……

 当たり前のように牛乳好きの男は監視の目を振り切り出撃する。手には牛乳を持って……

 

 戦後彼らの撃破した戦車の数は群を抜いて多かったが、軍医と牛乳が大好きな男は秘密にしていることがある。出撃回数を誤魔化すため、戦車撃破数を誤魔化していたということを……

 

――数年後 1951年 ソ連 モスクワ

 前年、世界初となる長距離自動車耐久レースが行われることが日本で発表され、場所の選定の結果、ソ連のモスクワからカタルーニャ共和国のバルセロナに至る超長距離レースとなることが決定された。

 走るコースは各国で選定し、大会運営を行う日本と協議を行い決定された。参加チームはドライバーが二名と整備スタッフでの参加となり、競技を行っている間ドライバーは常に車に乗っていることが要求される。

 一日走ることができる時間は十二時間に定められ、数日に渡ってゴールのバルセロナを目指す。

 

 民間会社がスポンサーとなった自動車耐久レースだったが、多くの体力自慢の軍人が参加を表明し、それぞれの国の代表チームとして登録した。

 ドイツからは、牛乳が大好きな男と相棒の軍医が参加しており優勝候補の一角として新聞で報じられていた。彼らは陸軍ではなく空軍なのだが、中欧戦争中の無茶なまでの出撃回数から代表に選ばれたのだった。

 

 日本の代表も負けてはいない。剣術と射撃で表彰され、無尽蔵の体力を誇る「鉄人」との異名をとる軍曹が参加する。彼は体力だけでなく、白兵戦技術でも日本陸軍の中で群を抜いている。もう一人は運転技術の非常に優れた者で、こちらも優勝候補にあげられている。

 この他に英仏米墺などの国代表チーム、民間の自動車会社のチームなどもレースに参加していた。

 

 開会セレモニーの前にドイツ代表チームと日本代表チームは挨拶を交わす。

 

「あなたが噂の鉄人ですか!」


 牛乳好きの男は日本の「鉄人」を歓心したように眺める。男には分かるのだ。「同じ空気」というものが……


「お会いできて光栄です!」


 鉄人もまた牛乳大好きな男に感じ入ったものがあったらしく、二人はニヤリと微笑むと固い握手を交わす。

 二人の後ろで軍医が苦い顔をしていたことが印象的ではあったが……

 

 レースが始まり二日たつと、軍人を代表とした国代表のチームは遅れ始める。トップ集団は運転のプロを集めた民間のチームで、やはりプロには体力だけで勝つことは難しかったようだ。

 それでも日本とドイツの国代表チームは無尽蔵の体力で突き進み、ドイツ国境を越える頃には疲れの見えて来た民間チームに追いついてくる。

 

 フランスを通過し、バルセロナが見えて来る終盤戦に至ると、ドイツ代表と日本代表の一騎打ちになり、牛乳が大好きな男と鉄人は相棒に交代することなく、ほとんどの時間運転していたという……

 

 しかし、最終日になると日本代表がドイツを突き放す。これまで目立たず忘れがちだったが、日本代表の鉄人の相棒は運転技術が非常に高い人物が選ばれていたのだ!

 鉄人が相棒の疲れを回復させるため、多くの時間を運転していたことが最終日になり功を奏する。元気一杯の鉄人の相棒は最終日に多くの時間を運転し、リードした日本代表がそのまま優勝する。

 

 過酷なレースではあったが、盛り上がりも見せたレース運びの結果、長距離自動車レースの模様は世界各国で大きな注目を集め、今後三年に一度定期的に長距離自動車レースが開催されることが決定する。

 欧州の多くの国を通過する長距離自動車レースは、域内地域が安定し平和であることが必須になるため、いつしかこのレースは「平和の象徴」となっていく。

 

 余談ではあるが、第二回大会から軍人の参加はなくなったものの、大会セレモニー後にドライバーが牛乳を飲むという儀式が、このレースの伝統となったという…… 


 ※次回は火曜日予定です!

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