第104話 外伝10.1951年 アメリカ 某所

――1951年 アメリカ 某所 とある畜産家

 アメリカは畜産業や農業が盛んで、穀物や家畜の品種改良や農業機械の技術は世界でトップに君臨している。

 広大な土地で大規模に経営するアメリカの畜産業と農業は、品質が良い割に値段が安いため海外への輸出が好調だ。それに後押しされるように、年々アメリカ国内の食料生産量も増大の一途を辿っている。

 

 最近では独墺向けに米の輸出が伸びてきているという。アメリカ国内の米消費量はさほどでもなかったが、独墺で米の消費量が上がっていることに目をつけたアメリカのとある業者の動きがきっかけとなって、アメリカ国内で米の生産がはじまる。

 独墺で輸入される米輸入量のうちアメリカが占める割合は年々増加しており。早くも来年にはアメリカのシェアがトップになる見込みになっている。このペースで行くと五年後にはシェア七割に到達する見込みだ。

 

 経済が好調な日本向けの輸出量も増加の一途を辿っている。日本向けには小麦などの主食となる穀物や、豚肉、牛肉などの主菜となる肉類が人気で、食生活が多様化する日本の需要に合わせてこれら欧米諸国が主食とする品目の輸出が伸びているというわけだ。

 アメリカは食料生産力だけではなく、工作機械を始めとした工業製品、鉄鋼などの素材、ソーセージなどの加工食品と輸出品目は多岐に渡る。国内の需要も多い為、アメリカは世界最高のGDPを持つ国として君臨している。

 

 アメリカで大規模牧場を営む赤ら顔に髭もじゃの中年の男――ボブは小麦農家で友人のジョーイの所へ向かっていた。ボブはジョーイから見せたいものがあると連絡を受けたので、彼の家へ車を走らせていた。

 ジョーイの家はボブの家の隣なのだが、車で移動しなければ朝に出ても彼の家に到着することには日が暮れてしまう。二人とも広大な土地を所有しているから、隣といっても相当な距離があるのだ。

 

 鼻歌を歌いながらジョーイの家まで到着したボブは彼の家のベルを鳴らす。

 ベルの音を聞いたジョーイがすぐに扉を開ける。

 

「ハーイ! ボブ! 来てくれてありがとう」

 

「ヘーイ! 何言ってんだジョーイ。俺こそ待たせてごめんよお」


 陽気な二人はご機嫌な挨拶を交わすと、家の中へと入っていく。

 ジョーイはリビングルームに置いてあるテレビをつけ、ボブに肉厚のステーキと甘いコークを振る舞う。

 

「ヒュー! ジョーイ! こいつは素敵なステーキだ」


「何言ってんだボブ。それは君のところの牛だぜえ」


「サンクス。ジョーイ。俺の牛を喰ってくれて」


「ボブのところの牛肉は最高だぜ!」


 などとイカシた会話を交わす二人はテレビを眺めながら、食事を楽しむ。

 テレビの映像がCMになると、ちょび髭の初老の男が熱弁を振るっている。この男は最近アメリカでも話題の欧州のCM王だ。

 彼がアメリカでCMに出演し始めると、すぐに話題となり欧州や日本で成功したのと同じく、彼がCMでおススメする商品の売れ行きは好調とボブは聞いている。

 

「ジョーイ。このちょび髭の男はご機嫌らしいな」


「オウイエ! そうだぜ。ボブ。こんな本まであるんだぜ」


 ジョーイはボブに机の上に積み重ねた本の束からなかほどにある本を抜き出す。彼はボブに手に持った本を手渡す。

 本には「我が闘争」とタイトルが書かれていた。

 

「ジョーイ。これは?」


「その本はさっきCMに出ていたちょび髭の著作さあ」


 ジョーイはちょび髭の著作である「我が闘争」の内容をかいつまんでボブに説明し始める。

 「我が闘争」はちょび髭の野心とCM戦略論が書かれた本らしく、前半部は自身とビジネスパートナーであるヨーゼフの演説方法の違いや、ヨーゼフと二人で行う際の弁舌論、単独で行う場合の弁舌論などCMにおける演説の大切さが主に書かれている。

 後半部はちょび髭が全世界のCMを制覇に至るまでの野心が書かれている。既に制覇した国と地域、これから進出する国について記載が進み、最後にはソ連を制覇して世界制覇が成ると結ばれている。

 

「なるほど。ジョーイ。我が闘争……クールだぜ」


「だよな」


 ボブとジョーイは笑い合い、再びテレビに目を向けるとまたしてもちょうどちょび髭がCMに出演していた。

 食事を終えた二人は、ジョーイの農業機器が格納されている小屋まで移動する。

 

 小屋にはなんと……民間用の小型飛行機が鎮座していたのだ!

 

「ジョーイ。こいつはすげえぜ!」


「ハハハ! ボブ。驚いてくれたかい?」


「もちろんだよ! こいつで種まきってご機嫌だな」


「そうだろう。小型飛行機の免許を取るのも大変だったんだぜ」


 ハハハ! と二人は肩を竦め陽気な笑い声をあげ、お互いの背中をバンバンと叩き合った。

 

 

 ボブはジョーイから「我が闘争」を借りてきて、さっそく本を読むことにした。ジョーイが言うにCMの戦略を述べた前半部より、世界制覇を狙う野心が書かれた後半部の方が面白いと言っていたから、ボブは先に後半部から読み始める。

 後半部ではこれまでCMで制覇したという国と地域が書かれていたが、どのような商品を宣伝したのかが一覧で記載されていたのだった。

 

 ボブが気になった商品は日本国内で宣伝されたソーセージである。日本でソーセージ? そういえば最近、豚も牛も日本向けの輸出が伸びているとボブの耳にも入っている。

 ちょび髭が日本でソーセージのCMを打ったというならば、ソーセージは売れるはずだ。ボブはそう考え、ソーセージの加工業者に連絡を取ることを決めた。

 

 同じようなことを考えたのはボブだけではなく、アメリカは日本へソーセージを積極的に売り込みを行う。その結果、日本はアメリカのソーセージを輸入し始めることになる。

 アメリカが輸出する日本向けソーセージのシェアが独墺を抜くのはこの時より五年後だったという……



――ところ変わって日本 叶健太郎

 アメリカが積極的に日本へ展開しているフードチェーン店が、ついに二十店舗になったと聞き、新しい物が好きな叶健太郎は、一度食べてみるかとアメリカ系のフードチェーン店に行ってみることにした。

 アメリカといえば食料生産大国で、安く品質がいい食料品を日本でもよく見かけるようになってきた。そんな食料品大国が送り出すフードチェーンなのだから叶健太郎は期待を込めてフードチェーン店まで足を運んだのだ……

 

 しかし、フードチェーン店はいささか味気ないものだった。種類の違うハンバーガーにフライドポテトとドリンクのセットが主なメニューで、叶健太郎はチーズが入ったハンバーガーのセットを頼む。

 すると立ったまま待たされたことに驚いたが、なんと二分もたたないうちに注文した料理が出て来たのだ!

 

 これには叶健太郎も開いた口が塞がらなかった。ここまで早く出て来ると携帯食レーションのようじゃないか……叶健太郎は心の中で独白しトレイに乗ったハンバーガーセットを眺めるのだった。

 彼はこの後、味は悪く無いと呟いていたという。 

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