第99話 外伝5 1949年頃 サファリパーク熱 過去
――アフリカ某所 牛男 過去
何故アフリカに……アフリカの某サバンナへ降り立った牛男の最初の感想はこれだった。先日ハインリヒから牛男へ珍しいゾウガメが生息しているガラパコス諸島へご一緒しないかと招待されたのだが、あれよあれよという間に行先が変わり、牛男はサバンナへ来ていた……
俺はガラパコスのゾウガメが見たかったのに……牛男は頭を抱えるがサバンナまで来てしまったものだから、これから行先を変更するわけにもいかない。
牛男は通訳の男と共に、サバンナの別荘まで車で向かっている。ハインリヒはいつものごとく多忙なので途中から合流すると連絡が入ったらしい。サバンナの奥地となると電話も通じないし、なにかと不便なところなのだが……
不満をあらわにしていた牛男だったが、サバンナの景色が目に入り、遠くにキリンの群れが見えると現金なもので一気にテンションが最高潮になる。
「凄い! キリンの群れですよ!」
牛男は運転手と通訳の男に向けて興奮した様子で遠くに見えるキリンの群れを指さす!
「牛男さん。キリンが好きなんですか?」
「キリンはそこまで好きってことはなかったんですが、実際群れで動いているキリンを見ると興奮してきました! 凄い!」
牛男の余りの喜びように運転手は気をきかせ、キリンの群れへ近寄っていく。余り近寄り過ぎると危険が伴うので、多少離れた位置で車を停車させる。
もちろんいつでも動けるように車のエンジンはつけたままだ。
牛男はまじかに見えるキリンの群れを見上げ感嘆のため息を吐く。
しばらく眺めた後、キリンの群れから離れ車は別荘へと向かう。
途中、空を飛ぶ鳥の群れや草を食む草食動物などが目に入った牛男のテンションはあがりっぱなしで車中ずっと「凄い」「凄い」を連発していた。
別荘で宿泊し、次の日はサバンナを車で走り魅力的な動物たちを観察することができた牛男はもうすっかりここへ来た時の不満など残っていなかった。
その晩、ハインリヒが別荘に到着し牛男へ晩さん会を開いてくれる。
カラフルな野菜と鳥の丸焼き、冷えたビールが用意され、二人と通訳の男は乾杯する。
「牛男さん。待たせてしまい申し訳ない」
ハインリヒはビールを口へ運びながら、牛男へ言葉をかける。
「いえ。動物園の関係者が悪いのですよ。目的地が二転三転してしまいましたし……」
ハインリヒの誘いがきっかけであったが、牛男が長期休暇をとって動物を見に行くという噂が会社の関係者に知れ渡ってしまい、行くならアフリカへだのバイカル湖へなど勝手に盛り上がってしまった。
その結果、行先がアフリカのサバンナにすり替えられ、ハインリヒもアフリカの方がガラパコスより望ましかったもんだから行先が変わってしまったのだ。
「満足してもらったようで良かったです。サバンナも素晴らしいでしょう?」
「はい! もう凄いの連発でしたよ!」
牛男はハインリヒへ今日見て来た動物たちの様子を熱っぽく語りかけると、ハインリヒも嬉しそうな顔で彼の言葉を聞いている。
「牛男さん。サバンナには密猟者がいるのを知ってますか?」
ハインリヒはこれまでの笑顔から表情が一変し、暗い顔で牛男に尋ねる。
「聞いたことはありますが、それほど酷いのですか?」
「ええ。密猟者が後を絶ちません。早めに手を打たないと動物によっては絶滅する可能性まであります」
ハインリヒは憎しみの籠った声で密猟者へ罵詈雑言を口走り始める。牛男はこれほどの怒りを見せるハインリヒを見たことが初めてだったので少し戸惑うが、彼の気持ちは痛いほど理解できるので激しい彼の態度に逆に好感を覚えた。
ハインリヒは牛男にステラーカイギュウというベーリング海にかつて生息していたガイギュウについて聞かせてくれた。ステラ―カイギュウは毛皮を取る為に人間達に狩りつくされ僅か三十年ほどで絶滅してしまったという。
人間達の狩猟圧をコントロールしなければ第二、第三のステラ―カイギュウが出て来ることは明らかで、動物たちを絶滅から守る国際基準の必要性を彼は訴えるのだった。
彼の動物保護活動に感銘を受けた彼の出身国であるドイツ、隣国のオーストリア連邦では動物保護団体が発足し、動物保護の必要性を訴えているそうだ。日本でもハインリヒがオブザーバーとして参加した動物保護団体がもうすでにあるそうだ。
ハインリヒは今後、アフリカに多くの植民地を持つイギリスとフランスに密猟者へ厳しい取り締まりを行うように制度を整えるよう働きかけていくと強く牛男に語りかける。
「ハインリヒさん。俺も日本に戻ったら会社のみんなに密猟者の事を伝えます」
「ありがとう。牛男さん。ところでサファリパークを日本に作ってみませんか?」
「サファリパークですか……」
ハインリヒはサファリパークの構想を持っていて、それは動物たちをある程度自由に動けるよう飼育し、観光客は車から動物たちを観察するようなテーマパークらしい。
なるほど、それは面白そうだ。牛男はサファリパークにいたく興味を持ち、どうすれば動物たちを飼育し安全に配慮できるのかを模索してみようと決意するのだった。
――磯銀新聞
こんにちは! 世界で一番ノリの軽い磯銀新聞ですよお。今回は読者さんからの希望をお聞きして女性記者の遠野真由美がお送りするね。ええと? あなたのためじゃないんだからね?
なんのことか分からないんだけど、叶さんがそう書けばもうウハウハだっていってたの。何のことなのかな?
動物愛護、環境保護活動が先進国で盛んになってきてるの。素晴らしい自然を守ろうって動きね。科学技術の発展で森が切り開かれて街が出来て、公害によって自然環境はどんどん破壊されていってるの。日本でも自動車の排出規制とか工場排水規制など、国民の健康を守り環境を保護する法律は整備されてきているんだけど、ドイツやオーストリア連邦にもその動きが広まっていって先進国では概ね環境法は定められたんだよ。
民間でも環境保護に対する関心が高まって来ていて、森を守ろうって団体が増えてきているの。うまく自然を守りながら産業発展を行っていくことが大事だと言うことなのね。
台湾の水族館と動物園が大きな地元の観光資源になったように、沖縄や南洋諸島でも観光客を呼び込む施策として地元の自然を生かした観光地の立ち上げを行っているのよ。どんな観光施設ができるか楽しみ!
ところ変わって、南アジアの元イギリス領インドは法整備が難航しているみたい。イギリス領インドは1946年にイギリスが完全自治を認めたんだけど、イギリスは元イギリス領インドに宗教と政治、法整備を切り離すよう求めているの。インドの高官の中に従来の慣習である宗教による身分制度を切り離すべきではないとする勢力がいて、イギリスとイギリスに賛成するインド高官と激しく議論を交わしているの。
もう一つ、元イギリス領インドに分離問題があるの。イギリスの希望ではイギリス領インドは一まとめで独立して欲しいみたいなんだけど、セイロン島が分離し、今度はインドも二つに分離しそうな情勢になってきているの。
国の分裂はともかく、政教分離と身分平等の成文法を死守できないとイギリスは完全自治を取り消すと強硬な姿勢を取るようになってきたわ。
元イギリス領インドはどうなちゃうんだろう。今後分かり次第ここで報告するね。
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