第91話 1946年 春 オランダ領東インド崩壊 過去

――イタリア 藍人 過去

 藍人は久しぶりに欧州出張を命じられ、ドイツ、オーストリア連邦を経由してイタリアのローマにまで来ていた。前回仕入れたガラス細工は日本で好評を博している。次は何がいいかと考えながら藍人は通訳とローマの街を散策する。

 ローマで日本人の姿は珍しいらしく、藍人がオープンカフェで軽食を取っていると陽気なイタリア人に何度か声をかけられた。

 

 藍人に声をかけたイタリア人は日本の鈴鹿サーキットで開催された自動車レースを興奮した様子で語ってくれた。イタリアは今年から鈴鹿に参戦するみたいで車好きのイタリア人達の間では鈴鹿の話で持ち切りだということみたいだ。

 自動車レースがきっかけで、藍人はイタリアでどんなスポーツが人気なのか気になり、コーヒーを飲みながら通訳にイタリアのスポーツについて聞いてみることにする。

 

「イタリアではどんなスポーツが人気なんですか?」


「サッカーかなあ。イタリアの鈴鹿参戦が決まってから、さっきのイタリア人みたいにモーターレースに興味を持つ者が増えましたね」


「なるほど。サッカーは日本でもそれなりに人気なんですよ。来年からプロ化されますし」


「ほお。日本もプロ化するんですか。いい選手が育ちそうですね」


「日本ではドイツ人とオーストリア連邦の人が大活躍してますよ」


「なるほど。イタリア人はスカウトしてないんですか?」


「サッカークラブの事は良く分かってないんですよ。そもそもイタリアと日本のサッカークラブに交流が無いというのでしたら、両者の橋渡しをすると面白そうですね」


「おお。素晴らしいですねそれは! 私も一度、日本のスタジアムを見に行きたいですよ。もちろん鈴鹿と一緒に」


「鈴鹿人気なんですね。イタリアでは」


「そうですよ。ドゥーチェも自動車レースに力を入れるって言ってますしね」


 藍人はオープンカフェを立ち去った後、一旦ホテルに戻り、日本プロサッカー協会へ日本のサッカークラブとイタリアのサッカークラブに交流があるか問い合わせる。その結果、交流の動きはあるがまだ具体的に動いていないとのことだった。

 それなら、せっかくイタリアに来ている間にパイプを作っておくかと藍人はイタリアのサッカークラブへ問い合わせを始める。

 

 その結果、日本のサッカークラブに興味を示してくれたイタリアトップリーグに所属するクラブは二つ。藍人は日本に帰国後、この二つのクラブを日本のサッカークラブに紹介してみようと意気込みながらイタリアを去りトルコへと向かう。


 イタリアは途中で立ち寄ったに過ぎなかった藍人だったが、トルコでやることは既に決まっている。藍人の目的は開発が進み、採掘できるようになった鉱物資源が目当てなのだ。特にマグネシウムは採掘量が多くなり、日本への輸出も増えて行っている。

 量はそれほどでもないらしいが、新たに金、鉄、鉛、ボーキサイト鉱山の開発も進み、間もなく商業ラインに乗るそうだ。藍人は地元の開発会社や日本との合弁会社、日本企業などを訪問し今後のビジネスへ繋げることに成功する。

 

 トルコでの業務が終わったら、次はサウジアラビアか……藍人はため息をつきサウジアラビアへ向かう飛行機に乗り込む……


――磯銀新聞

 どうも! 日本、いや世界で一番軽いノリの磯銀新聞だぜ! 今回もエッセイストの叶健太郎が執筆するぜ! 鈴鹿サーキットで二十四時間耐久レースがあったんだが、みんな見たのか? 俺? 俺は最初と最後だけだなあ。二十四時間ずっと街頭テレビに張り付いていた人もいるとか。

 テレビもなんとか手が出るくらいの値段になって来たから、そろそろ買いたいよな。来年にはきっと買う。いや家庭用エアコンが先か。悩むなあ。え? どっちも買えばいいじゃないって? それに毎年エアコンとか言ってて聞き飽きた?

 ま、まあ。俺の夏の風物詩とでも思ってくれよ。

 

 東南アジアのオランダ領東インド(インドネシア)だが、ついにオランダがをあげたんだ。ジャワ島西部のジャカルタを含む地域を残し、オランダは撤退を余儀なくされた。

 ジャワ島は西部にオランダ領バタヴィア(ジャカルタ)、東部はマタラム王国が復帰し領域をジャワ島東部とした。ジャワ島の北にあるカリマンタン島(ボルネオ島)は、カリマンタン共和国として独立し、日英の支援を求めた。


 日英はそれに応じ、内戦で荒廃したカリマンタン共和国の復興と経済支援を約束する。スラウェシ島を含む東部島嶼は、東ズンダ共和国として独立するが、キリスト教とイスラム教の対立が顕在化しつつある。東ズンダ共和国はオーストラリアを警戒し、イギリスの支援を避け日本とドイツに支援を求めた。

 非常に複雑だが、オランダ領東インドは多数の国が独立しオランダはジャワ島西部を残し全ての植民地と影響力を失うことになる。結果的に見ると、英仏のように紛争が大きくなる前に自治権を与え、利権と影響力を残すほうが賢かったってわけだな。

 

 東南アジアの列強直轄地をまとめると、イギリスはシンガポール、フランスはコーチシナ、オランダはバタヴィア(ジャカルタ)となった。

 

 西アフリカの植民地支配体制についてイギリスとフランスは日本とドイツをオブザーバーとして参加させて、今後いかにして自治権を与えるのかを協議している。現在の区分けで独立させた場合、独立後内紛や領土争いが起きる可能性が高く、いずれ来る独立の動きに備えたいとのことだ。


 西アフリカだけでなく、東アフリカ、中部アフリカも協議を進めていくとのことだ。英仏は東南アジアの自治権付与で一定の成功を収めたため、アフリカ地域においてもアフリカ諸国から利益が取れる道を模索したいってことだな。

 利益が取れるようになるには、安定と平和、経済発展が進むことが望ましい。しかし、今までの分断統治主義が独立後紛争を招くってことみたいだな。

 

 イギリスは南アジアの植民地へ完全自治権を付与することを既に決定している。中東については現在協議中だが、それほど遠くない未来に独立となるんじゃないかな。続々と進む脱植民地。植民地政策は終焉しゅうえんを迎えつつある。

 

 次は思った以上の騒ぎになっているアメリカ南部各州に目を向けようか。アメリカ南部諸州はアメリカ連邦政府が提案した再選挙案を受け入れ、各州候補者を立て始める。再選挙受け入れを聞いた公民権運動支持者は一旦沈静化するが、南部州の各州政府は公民権派の立候補者を妨害し、アフリカ系アメリカ人の立候補を認めない方針を打ち出した。

 アメリカ連邦政府はこれに対し沈黙を保った結果、アメリカ南部各州の公民権運動支持者は州政府ビルを取り囲み、州政府閣僚を州外へ追い出す騒ぎにまで発展したんだ。

 どんなことが起こったかっていうと、州兵は公民権派を支持し、州警察は真っ二つに割れ機能不全に陥った。そのため治安組織が機能しなくなり、州兵の支持を得た公民権運動支持者はアメリカ南部諸州の州政府を牛耳り臨時州政府を発足させ、選挙を実施する。


 選挙結果は対立候補が州外へ退去しているから、当然のごとく公民権支持派の州知事が誕生した。誕生した南部各州の州知事は議員選挙も実施し、旧勢力を一掃する。それと同時に、南部各州の代表者選挙を行い南部各州の代表を選出した。

 代表者はアフリカ系アメリカ人が選ばれ、彼は「全ての人種は平等である」と宣言し、沈黙を保ったアメリカ連邦政府を非難した。

 

 アメリカ連邦政府は暴力的な手法によって誕生した新知事全てを認めず、平和的に再選挙を実施するよう要求した。アメリカ南部代表はこれを拒否。

 アメリカ連邦政府とアメリカ南部各州の対立が深まっており、この後どうなるのか予想がつかねえな。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る