第92話 1946年 夏 モスクワ会談 過去

――台湾 牛男 過去

 マダガスカルでリクガメを気に入ってしまった牛男は、台湾水族館の隣にリクガメを飼育するために動物園を提案し台湾水族館の経営陣も乗り気だったため、台湾動物園が建築されることになった。

 台湾動物園の開園は来年秋を予定しているが、どのような動物を飼育するのか日夜検討されている。企画担当者や経営陣は人気のある動物を飼育したいといくつかピックアップしているがどれだけ実現されるのかは未知数だ。

 アフリカと関係の深いフランスとイギリスへ問い合わせを行ったところ、象、キリン、ライオンについては輸入できることが決まった。象は特に人気なので経営陣は手放しで喜んでいたのが牛男の印象に残る。

 次にチワン共和国へパンダを輸入できないか交渉を進め、パンダも動物園で飼育できることになった。

 

 ここまで人気の動物が揃えば、後は動物園のスペースが許す限り、自由に動物を揃えて良いとお達しが来たので、牛男は世界中のリクガメを一同に会したリクガメ園を提案する。世界でも珍しい試みだったので、経営陣の受けが良く、牛男は当初の思惑どおりリクガメを台湾で飼育する目標を達成した。

 ついでに、牛男はハインリヒのお気に入りであるリスザルもねじ込んでおいた。


 リクガメを飼育できることが決まって、牛男はハインリヒへ連絡を入れようと自宅のラジオをつけながら彼の連絡先をさがしていた時、興味深いニュースが彼の耳へ飛び込んで来た。

 

<ロシア公国と新ソ連が国交正常化しました>


 牛男はロシア公国とソ連が友好条約を結んだことに少し驚いたが、すぐにあることを思い出す。そう。両国の国境線沿いにあるバイカル湖だ!

 ニュースを聞いた牛男は翌日、幹部と経営陣へバイカル湖のバイカルアザラシを飼育してはどうかと提案する。世界でまだ飼育している動物園がないバイカルアザラシは話題になると考えた経営陣は牛男の提案を受け入れるが、向こう一年は現地の情勢を見守るとした。

 牛男は自分がバイカル湖に行くことを交渉し、一年以上後になるが彼はバイカル湖に行けるようになるのだった。


 その日の晩、昨日連絡しておいたハインリヒからさっそく牛男へ電話が入る。電話口に居るのは通訳で、通訳の隣にハインリヒがいるようだ。ハインリヒにリクガメとリスザルの事を伝えると、輸入については全て任せてくれと力強い返事が返って来る。

 牛男はハインリヒに何度もお礼を述べ、ハインリヒは台湾動物園が開園したらそちらに行くと牛男へ伝える。

 全て思惑通りに進んだ牛男は胸を撫で下ろし、台湾動物園のまだ見ぬ姿を想像し就寝する……


――磯銀新聞

 どうも! 日本、いや世界で一番軽いノリの磯銀新聞だぜ! 今回もエッセイストの叶健太郎が執筆するぜ! あ、暑いクーラーが欲しい。ん? 毎年恒例の言葉が出たって? しかしいい加減家庭用クーラーが安くならないものかな。

 ん? テレビはどうしたんだって? 中古のテレビを入手したんだよ。ん? 癒着? 失礼な! 払下げを安く買ったんだよ。他に払下げを購入したいって人がいたんじゃないのかって? そらいたけど、まあ俺の人徳って奴だな。

 いやあ。自宅でテレビを見れるっていいな。ん? 動かなくなって腰がますます悪くなるだって? いや。ちゃんと毎日散歩してるから! 大丈夫だって。

 

 東西に分かれてしばらく経過したソ連だが、東ソ連で大事件が起こった。東ソ連の指導者が病没し、共産党執行部のメンバーが一新され、新指導者が選ばれたんだ。新指導者は病没した旧指導者を批判し、共産党執行部も新指導者を支持する。

 新指導者は戦争状態にあった西ソ連と講和に向けた交渉を行うことを宣言し、モスクワで東西ソ連の講和交渉の場が持たれた。西ソ連も旧指導者から追放されたメンバーで構成されていたから、指導者が変わった東ソ連と敵対する理由もない。


 東西ソ連の共産党幹部は東西合併を行うべきと意見が一致していたが、合併後の指導者や執行部のメンバーの選出に難航する。まあ、これは当然だよな。誰も好き好んで幹部から降りたくないよな。


 最終的に東西ソ連はお互いに妥協し、より指導歴の長い西ソ連の指導者を統合後のソ連の指導者とすることを決定した。西ソ連の幹部は旧指導者から追放された者で構成されていたから高齢の者が多く、東ソ連の幹部より多くの人数が新ソ連の幹部となったが、年齢的に近く権力移動が行われていくだろうと思われる。

 西ソ連の指導者にしても、高齢で新ソ連の指導者を行うのは五年間とこの東西合併交渉で定められた。

 

 新ソ連は西ソ連の対外融和政策を維持し、東欧においては日独墺と引き続き友好関係を維持していくと発表している。


 東欧情勢は新局面を迎えたわけだが、ルーマニア社会主義国は結局崩壊せず、国王派は敗れ去った。バルト三国は独立し、共産党を解散している。ウクライナなど旧ロシアに吸収されたバルト三国以外の国家群はそのままソ連に所属しているし、ポーランドのソ連占領地域はソ連領として維持されている。

 東欧で戦争があったが西ソ連の成立後、東欧情勢は落ち着きを取り戻し、統合され元のソ連となったとしてもソ連は今の関係を維持していくというわけだ。

 

 新ソ連の誕生が決まった翌週、新ソ連の指導者はロシア公国を電撃訪問した。新ソ連の指導者はロシア公国で匿われていた時期もあり、ソ連が統合し自身が指導者になったことでロシア公国と国境を接することになった。

 新ソ連とロシア公国はお互いに国家承認を行い、友好条約を結ぶことでロシア革命以来の敵対関係を解消し両国の国交が開かれた。続いて新ソ連は中華人民共和国、モンゴル、内モンゴル、東トルキスタンを訪問し、関係改善に尽力する。


 結果、新ソ連は共産圏のベトナム以外の各国と友好関係を結び、日独墺に加えロシア公国とも友好関係を結ぶことに成功した。

 

 新ソ連の一連の友好政策を受けて日本の仲介の元、イギリスと新ソ連も国交正常化条約を結び、イギリスとソ連の長年に渡る敵対関係も解消することになった。今後はフランスやイタリアとも国交正常化が行われていく予定だ。

 

 次にアメリカに行ってみようか。アメリカ南部各州とアメリカ連邦政府の対立はアメリカ南部各州が合衆国を脱退すると宣言するまで対立が深まるが、アメリカ連邦政府がアメリカ南部各州の州知事と議員を承認したため、対立は解消する。

 アメリカ連邦政府は人種、宗教、民族による平等を宣言し一連のアメリカ南部各州の問題を収束させる。

 

 アメリカ、ソ連の融和的な政策は他の地域にも広がっていき、フランスはベトナム社会主義共和国を承認し、独立を認める。ベトナム社会主義共和国はフランス領インドシナに成立した各国を認め、元フランス領インドシナの対立は終結したんだぜ。


 イギリスは南アジアのインドを始めとした各国へ完全自治を認め、ポルトガルやフランスも南アジアの植民地を手放し、南アジアの脱植民地は成った。

 中東のイギリス植民地は完全自治を与えるにあたって、国境線の見直しを行っている。また、世俗国家とすることを自治権を与える各国へ交渉に当たっている。こちらもそう遠くない未来に独立を果たすだろう。

 

 いやあ。ようやく平和な世の中になって来たなあ。このままずっと平和だったらいいのにな。

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