第52話 ドイツ再軍備の提案 現代
――健二 現代
「父さん。日本の国際影響力は史実より格段に高そうだけど、それが逆に首を絞めてるような気がするんだよね」
「そうだな。スペイン内戦での参戦は悪手だっただろう……イギリスとフランスに引っ張られて出て行ってしまったんだろうが、フランスが出なかったことで日本が悪目立ちしてしまったな」
「その点、アメリカは上手くやったのかなあ」
「アメリカは伝統的に議会が外部と関わることを拒否するからなあ。中華民国問題は別だが……」
「スペイン内戦に続き、エチオピアにも日本が関わることになったんだよねえ」
健二の呟きに父は腕を組み、思案顔で応じる。
「健二。スペインもエチオピアも日本が関わることが無いと俺達が思い込んでいたから、特に何も検討しなかった」
「確かに……」
「今後は関係ないだろうと思う地域でも、検討しておくほうがいいな。ただ史実で起こった事件の多くは起こらないし、国際情勢から予想するしかないんだけどな」
「既に予想できる範囲を超えてるよお……」
既に国際関係は史実と大きく異なる。スペインに手を出してしまったことで、今後欧州で事件があった場合に日本が出て行くこともあるだろう。エチオピアのように日本へ仲裁を求めてくるかもしれない。
トルコやドイツなどの友好国で事件があった場合、日本を頼ることは容易に予想できる。
「父さんは今後警戒する国はどこだと思う?」
健二の言葉に父は一分ほど考え込んだ後、口を開く。
「健二、中華民国ほどではないにしろ、今後警戒すべきはポーランドだ」
「え? ポーランドは日本と円ペッグを結んだし、ドイツとオーストリアと共に円経済圏に入ったんだよね」
「先日ノートの情報からポーランドの指導者が変わったと報告があっただろう」
「うん。確か史実と同じでポーランドを良く導いていたよね」
「ああ。経済面でも戦争でもポーランドは良く立ち回ったと思う。ただ、史実からにはなるが、指導者交代によりポーランドの政治は迷走しただろう」
「西プロイセン問題かな。ソ連に焚きつけられてじゃないな、ソ連に操られた一部指導者層が出て来るかもしれないってことかな」
「ソ連とは限らないぞ。フランスかもしれないし、要は西プロイセンの騒乱をネタに行動を起こすかもしれないってことだ」
ポーランドの中にももちろん、西プロイセンを自国にと主張する勢力がいることも確かだ。これまではカリスマ指導者の影響で国体を揺さぶる勢力には全く揺らぎもしなかった。
この他にもポーランド内には共産党勢力もいるし、一度政情が不安定になったとすると不穏な勢力が出て来る可能性も大いに高まる……
ポーランドが西プロイセンにちょっかいを出したという既成事実を作ってしまえば、ポーランドのかじ取りは非常に困難なものになるだろう。暴走し、開き直るかもしれない。
「既にポーランドはソ連は不可侵条約を結んでいるし、フランスとも軍事同盟を結んでいるんだよね」
「フランスとはドイツが侵略して来た場合にだけ適用される軍事同盟で、ソ連は不可侵条約といいつつ、彼らは条約を守らないからな……史実だと」
父の言うことは最もだ。しかし、史実を知っているからこそソ連との不可侵条約は安心できないと分かるんだけど、不可侵条約があるから後顧の憂いはないと
「抑止策は何があるんだろう。父さん」
「簡単にはいかないだろうけど、ドイツとオーストリア連邦に再軍備させることだろうなあ」
「確かに国力にあった軍隊を……とまでは言わないけどポーランドに対抗しうる抑止力があれば、ポーランド政府も国内のかじ取りをしやすいか」
「再軍備も良し悪しだけどなあ。フランスやイタリアがどんな反応をするかだな……」
イタリアは口先だけかもしれないけど、オーストリア連邦内の「未回収のイタリア」は諦めると言っているから言葉の通りなら、独墺の再軍備に反対しないだろう。
しかし、フランスはドイツの再軍備が成るとすれば、脅威を感じると思う。国力を回復したドイツが軍事力まで持つことになった。となればフランス世論はドイツが復讐戦を挑んでくるとなるだろう。
「特にフランスに注意だねえ。父さん。あちらを立てるとこちらが立たずよ……難しいね」
「ソ連と中華ソビエト共和国が一番とすれば、次に来るのがポーランドとフランスだと思う。ポーランドは意外に思うかもしれないからさっき出したんだが」
「やっぱりフランスは状況が悪そうだよね」
「そうだな……史実に比べれば経済状況はマシだが……ドイツの経済発展に加え、バスクとカタルーニャの独立だろう?」
「フランスがバスクとカタルーニャにフランスも関わっていれば話は違ったんだろうけど、土壇場で議会の反対で参加しなかったんだよなあ」
フランスは史実より若干経済力があがっているが、ヴェルサイユ条約後パッとしない。元々、超大国だったアメリカとイギリスに比べ、フランスは列強上位とは言え、この二国に比べれば劣る。
史実通り恐慌にも苦しんだし、政権の混乱もあった。史実と異なる点はイギリスもそうだけど、ナチスドイツが存在しないから融和政策は行っていない。ヨーロッパ内での侵略戦争は今のところ起きていないから、融和も何も無いのだけど。
しかし、史実のイギリスはスペインに融和政策の為、手出ししなかったが、この世界では介入している。イギリスもアメリカも史実より他国へ介入しているのだ。
イタリアは日本と経済協力を結んだり、エチオピア帝国へ妥協をし、史実で莫大な予算を使った戦争を行っていない。ドイツは再軍備こそ行っていないものの史実より経済力があり、ナチスではない政権で安定している。
オーストリア連邦は言うまでも無く、史実よりはるかに経済力をつけていた。
こうして振り返ってみると、フランスだけが割を食っているように健二には見える。イギリスと同盟国とはいえ、父が言うようにフランスには最大限の警戒をすべきだと健二も思う。
「フランスはきっと危機感が募っているはずだ。それが戦争を指向する形で噴出してもおかしくはないだろう」
「確かにそうだね。そうなれば第二次世界大戦が勃発する可能性が高くなるから、事前に手を打てればいいんだけど……」
「イギリス次第だろうな。フランスはイギリスとは敵対しないはずだ。敵対するメリットがないからな」
「フランスへ日本が寄っていくと、逆に反発しそうだしね。フランスは」
「そういうことだ。フランスはこれくらいにしとくとして……健二、公害の事をそろそろ真剣に考えた方がいい」
「日本国内の公害対策のことかな?」
「ああそうだ。公害対策は対策が打てたとしても短期的には生産コストに直撃し、経済に影響が出るが、早く対策をすればするほど、対策費は下がる」
イギリスで産業革命が起こって以来、人類社会は公害に悩まされることになった。戦後日本では有名な公害訴訟がいくつもある。深刻な被害が出てからでは遅い。事前に手を打てるならば、公害被害者の悲劇は避けることが出来るはずだ。
この世界の日本は既に英米の技術水準に達しており、民生品にしても英米と変わらないものが普及している。となると、公害問題も史実よりはるかに早い時期に表に出てくるはずだ。
公害対策をすると、父の言うように製造コストがあがるから、物の値段が高くなる。それでも、長期的に見れば、早めに対策をした方がコスト面でも優位になるはずだ。
自然を破壊するのは簡単だが、復旧させるのは非常に大変なことだから。この世界の日本には公害の無い、美しい自然が保たれた日本でいて欲しい。健二は切にそう思うのだった。
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