第41話 日本の外交関係の検討 現在

 中華民国でもそうだけど、列強の中で最も注視すべきはソ連。これは間違いないだろう。

 東欧では、ポーランド・ソ連不可侵条約が史実だとそろそろ締結される。ソ連はポーランド・ソ連戦争で敗北しているから、東欧諸国の中だとポーランドを最も警戒していることは確かだ。

 同じ東欧諸国に数えられるオーストリア連邦は、ドイツほどではないが復興も進んでおり既に経済力ではポーランドを追い越している。そうはいっても、軍事力が制限されているから現時点で一番の軍事力を持つ国はポーランドで間違いない。


 史実通りに来るとすれば、ソ連の狙いはフィンランドだろう。史実のフィンランドとソ連の戦争――冬戦争はソ連に甚大なダメージを与えた。この戦争はフィンランドの奮戦もあったが、ソ連が粛清の為まともな将軍をそろえることができなかったこともソ連が苦戦した原因だ。

 この世界ではどうだろう。史実通りに大規模な粛清が起こるのか不明だ。中華民国で緊張状態が続いている中、軍人を片っ端から粛清していくだろうか……楽観視は出来ないよな。

 北欧にはスウェーデンの鉄鉱石など資源があるから、ここをソ連に侵食していかれると別の地域で鉄鉱石を開発するか、アメリカに頼るかになってしまう。

 何しろ鉄鉱石の八十五パーセントほどはスウェーデンとアメリカで産出されているのだから。アメリカ一国に頼ると、外交上鉄鉱石を盾にされると厄介になるし……開発して何とかするにも日本と縁遠い国ばかりなんだよなあ。

 ブラジル、オーストラリア、カナダ、インド、あとはソ連国内になる。やるとすればオーストラリアだけど、イギリスだしなあ……


 そんなわけで、東欧諸国の雄ポーランドと北欧諸国との繋がりは重要事項だと思う。幸い日本とこれらの国は現在経済協力を締結しようとしている。円ペッグを採用し不況を乗り切る腹で接近しているらしい。

 経済協力をさらに促進し、日本からこれらの国の国際買い取りや直接投資を行い、関税についても軽減処置を取るなどして影響力を高めたい。

 注意しなければならないことは、ポーランドの仮想敵国はソ連だけでなく、ドイツもオーストリア連邦も含まれるだろう。特にドイツとは領土問題を抱えている。そう、西プロイセン北部だ。

 ポーランドはリトアニア・ポーランド時代の領土を取り戻そうとしてソ連と戦争を行い、領土を獲得した。残す地域は西プロイセン北部なんだよな……一応東プロイセンも入るんだけど。


 隣国同士はどうしても領土問題を抱えるから、仕方ないと言えば仕方ないんだけど。ポーランドはフランスと軍事協定を締結済みで、この軍事同盟はドイツがどちらかの国へ攻め込んだ場合、協力してドイツに当たるといった内容になる。

 今のところ、ドイツが他国へ攻め込むことはまずない。何故なら攻め込む戦力の保持をヴェルサイユ条約で禁止されているからだ。

 問題は、領土的野心の元にフランスとポーランドが組んだ場合、両国がドイツへ侵攻する可能性もゼロではないってことになる。ポーランドがソ連と不可侵条約を結ぶってことはソ連がフィンランドへ攻めるにあたっての憂慮が無くなるだけじゃなく、ポーランドが他国へ攻める場合にもソ連を気にしなくて良くなるってことだからな……


 他にソ連と国境を接している国と言えばルーマニアか。ソ連がウクライナを吸収したから、ルーマニアとは国境を接している。ルーマニアは隣国オーストリア連邦のトランシルバニア州を狙っているが、単独でオーストリア連邦と事を構える力は無い。

 今のところ共産主義の流入は無いけれど、この世界のソ連なら何をやって来ても不思議じゃないから注視はすべきだろう……


 第一次世界大戦のきっかけになったバルカン半島は現在セルビア王国に取り込まれたモンテネグロがどうなるかだなあ。史実だとクロアチアやスロベニアも取り込みユーゴスラビアとなったが、この世界ではオーストリア・ハンガリー帝国が解体されなかったため、その地域はオーストリア連邦領になっている。

 モンテネグロがオーストリア連邦へ救援を求めたらどうだろう? いや、現状オーストリア連邦は軍備制限があるからその線はないか。


 別の地域に目を向けると、懸念地域はカスピ海周辺地域だな。史実と違いイギリスではなく、トルコがシリアを抱えているから、ソ連が付け入るチャンスがある。しかし、シリア方面へソ連が侵攻した場合、必ずイギリスが出て来ると思う。

 あの地域はイギリスにとって防衛必須な地域だからな……近くにはインドもあるしペルシャもある。イギリスの最重要地域の一つがこの地域だから、手を出されれば防衛に入るだろう。


「父さん。ポーランドと北欧諸国については経済協定を結んで、トルコとは防共協定でも結んでソ連を警戒した方が良さそうだね」


「トルコがシリアを持ってるから、逆に危険性が高いな。遠く離れた地域だけど、日本が防共協定に基づいて参戦となると、中華ソビエト方面へ侵攻すると思うだろうな。ソ連は」


「抑止力にはなるってことだよね」


「ああ。ソ連がシリアを攻めるにはかなり勇気がいるぞ。イギリスと争うってことだからな。あの地域は……」


「確かにそうだよね」


「ソ連と連動して動く国に警戒しておかないとだなあ。イタリアやフランスだよ」


「史実のイタリアはギリシャやトルコの島を狙ったり、ああ。スロベニア沿岸地域のヴェネツィア・ジュリア地域(トリエステやイストリア)などの未回収のイタリア地域もあるんだね」


「イタリアは危険性が高いぞ。すでにファシスト党が政権を握っているからな。史実でも動いただろう?」


「そうだねえ。エチオピアとの戦争もするし。フランスはどうなの?」


「フランスは史実よりドイツに対して危機感を持ってると思う。もう一つ懸念点としてはフランス国内は割に共産主義勢力がいるってことだな」


「フランスが共産主義化したら悪夢だね……」


「まあ。無いとは思うけどな。内乱状態まで発展したら厄介になるぞ」


 健二がソ連の次に警戒しているのはフランスだった。史実とそう変わらないのだが、これまでこの世界の歴史を振り返ってみると、フランスは割を食っていると思うからだ。

 フランスが特に損したわけでは無いのだけど、史実より安定し復興を遂げていくドイツに脅威を感じている事だろう。ドイツの対仏感情は極端に悪い。フランスも同様だろうから……

 だからこそフランスはドイツの息の根を止めようとパリ講和会議であれほどドイツへ苛烈に当たったわけだ。ポーランドやベルギーと対ドイツ同盟を締結しているし警戒感は解いていないことは分かる。

 西欧は融和と協調に舵を切ったが、一つ何かあれば途端に戦争になる危険性をはらんでいる。中心になるのはフランスとドイツで間違いないと思う。


 イタリアはファシスト政権になり、対外拡張政策を次々に実行していくが、列強国といってもイタリアの力は知れている。一国で余りに出過ぎると他の列強から釘を刺されて動きをとめるだろう。

 フランスとイタリアとソ連が手を組んだら……第二次欧州戦争になってもおかしくない。そうならないように立ち回ってもらわないと……

 そこでキーマンとなるのはイギリスになるだろう。イギリスならフランスへある程度注文を付けることが出来るはずだ。イギリスと日本は良い関係を継続しているから、イギリスを通じて影響力を出していくのもいい手だ。


「スペインでも内戦が近く起こりそうだよね」


「たぶんスペイン内戦は起こると思う。あのあたりは史実同様の動きをしているからなあ」


 どこもかしこも戦争ばかりだなあ。南米でもボリビアで戦争があるし、アフリカではエチオピア戦争。世界中で戦争しているよな。アジアでもベトナム共産党が力をつけると、中華ソビエトと連携してくるかもしれない。


「健二。災害情報は伝えてくれよ。後、タイで革命が起こった後はタイとも経済協力を結んだほうがよいな」


「了解。父さん。それも伝えるよ」


 災害情報はまだ先になるけど、三陸地方地震に室戸台風かな。

 健二はノートにまとめた内容を筆記していく……

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