第14話 ヴェルサイユ体制の考察2 現在

――現代 健二

 ラインラントの非武装化はこの世界でも実施されている。軍隊は陸海空で十五万人までと、史実より若干ではあるが増大している。イギリス案の二十万は通らなかったんだな……

 史実ではフランス案がことごとく通ったイメージだったが、ここでは西プロイセンで変化が起きている。軍隊も若干ではあるが増えている。

 これに対する補てんなのか不明だけど、元ドイツ植民地――極東の青島はフランスへと割譲された。中華民国へ行くのかと思ったが、さすが列強。

 

「父さん。領土と軍隊については、まあ落ち着くところに落ち着いたってところかな?」


「全体的に見てフランス案が通らないところがあったが、青島で我慢したってところか。西プロイセンは元々そこまでフランスが強硬ではなかったしな」


「自国と接してないものね」


「そういうことだ」


「ドイツが今後どうなっていくかが、一番注視するところなのかな?」


「一概にドイツだけとは言えないが、目を離してはいけない地域なのは確かだ」


「ナチ化しないように経過観察をしていなかいとね」


「ああ。ドイツに注目しないといけないのは確かだが、東欧・北欧地域も火種がたっぷりあるぞ」


「頭が痛い問題だね……」


「ソ連の動きもあるからな……」


「北欧のバルト三国、フィンランド、ポーランド……あげればきりがないね。ロシア公国もか……」


「ああ。複雑だからこそ考察のやりがいがあるってことだ! ポジティブに考えろ」


「はあい。次日本について聞いてみるよ」


 太平洋にあるドイツ植民地で日本が関わった地域を見てみると、当たり前だが史実とは乖離している。大陸に手を出さない方針を提案し、その通りに推移したと言えよう。

 朝鮮半島は英独で分け合っていたのだけど、英国の単独支配となる。英国は朝鮮半島における日本の協力の見返りに、鬱陵島を日本へ譲渡した。

 大陸にある青島はさきほどドイツの時に聞いた通り、フランスへ割譲。一方南洋諸島は史実のマリアナ諸島北部・パラオ・マーシャル諸島・ミクロネシアに加え、ドイツ領ソロモン諸島も獲得した。

 朝鮮半島や青島に比べたら小さな領域だけど、日本の海が拡大するのは悪い事ではないから委任統治領になると言うのなら歓迎だ。

 日本の領域についてはほぼ予想通りと言ったところかな。考えをまとめた健二はふうと大きく息を吐く。


<国際連盟はどうなったんだろう?>


<国際連盟はアメリカが加入しなかったので、日本でも相当紛糾したが日本も加盟しなかった>


 やはりアメリカは加入せずか。アメリカは伝統の孤立主義が国内で根強く、この世界でも史実と同様連盟への加入は議会で否決された。

 健二は父を見ると、彼は続きを聞くように促す。

 

<日本とアメリカの関係に動きはあるかな?>


<ああ。日米は二国間で防衛協定を結ぼうと協議している>


<防衛協定の内容次第かあ。極東については利害が一致してるものね>


<確かに。極東地域において日米ロは協調路線を取る動きをしている。ロシア革命で赤軍が統一すれば動きはあるかもしれない>


 日本は現状日英同盟を結び、今後日米同盟を結ぶよう模索しているのか。


「父さん。国際連盟に加入しないとなると、日本の国際関係はどうなっていくんだろう?」


「史実と違い、日本の経済力は疲弊した欧州もあり現在二番手になったんだよな。それなりに影響力はあると思うなあ」


「欧州が復興すれば、また追い抜かれそうだけど」


「どうだろう。差は詰まるかもしれないが……欧州が復興している間にも日本の工業力が向上していくからな。品質でも欧州に肩を並べるんじゃないか?」


「確かに。そうかも。もしそうなれば、史実の戦後日本のように経済大国になりそうだね」


「その可能性は大いにある。今後、関東大震災も世界大恐慌も回避してもらうつもりだからな」


「そうだった! 1920年代にはその二つもあったね」


「話がそれてしまった。経済力を持っても窓口は持っておいた方がいい。アメリカとの同盟関係は構築したいな」


「ノートの人が言うには大丈夫そうだけど」


「健二。今後の動き次第で流動するが、1920年代の日本の国際関係の方針を検討しよう」


 父は日本がパートナーシップを取りやすい相手と、友好関係を結んでおくべき相手を絞り込む。まずアメリカとは敵対しないように満州関係でがっちりと手を組むべきと示す。

 この方針には健二も全面的に賛成する。アメリカを相手にして日本が何とか出来る未来が全く想像がつかないからだ。アメリカは傍若無人だが、それを行えるだけの膨大な国力がある……

 次に日英同盟があるイギリス。イギリスは今後これまでのような絶対的な国力を維持することは難しいと父は見ている。植民地政策は史実でもそうだったが、どんどん時代にそぐわなくなってくる。

 史実では第二次世界大戦で止めを刺された感じだが、もしこの世界で第二次世界大戦が回避できたとすれば植民地帝国の命脈も少しだけ長くなるかもしれない。

 とはいえ、アメリカに比べれば脅威度は落ちるのは確かだが。

 パートナーシップを取りやすい相手はロシア公国と注目のドイツ。さらに動乱が予想されるオーストリア連邦。ロシア公国はともかく、独墺についてはアメリカの孤立主義の影響でアメリカからの軍事協力は期待できない。

 英仏は史実だと危機に対応出来ていなかったから、日本が影響力を行使し動乱を最小限に抑えることも期待を持っているからこその独墺二か国の選択だ。

 敗戦の為、協力を欲している二国はパートナーシップを取りやすい相手で、かつ戦争回避のために彼らへ影響力を持つこともできる。

 ドイツに至っては現状の日本より工業力・技術力が優れている為、彼らから得るものは大きいだろう。賠償金の援助のお陰で技術協力も約束されていることだし……

 ロシア公国はソ連が侵攻してくる可能性が高いと父は踏んでいる。来るとすればロシア革命が終結する1925年か公爵の死亡予定の1929年のどちらかだと父が予想を立てていた。

 ロシア公国に期待するのは、漁業資源と石油資源。石油資源は樺太と共に日本の協力が必要だろうから、積極的に支援し資源を獲得できるように進めていきたい。


「父さん。資源と言えば史実だと日本は苦労したようだけど」


「太平洋戦争は資源獲得の為って一面があるからな。今あげた五か国以外にも資源獲得に向けたパートナーシップの構築が必要だな」


「えーと。資源といってもいろいろあるけど」


「特に石油と鉄は注視しないとなあ。他にも地下資源はいろいろあるが……」


 石油と聞いてすぐ思いつくのはアラビア半島だけど、ヒジャーズはアラブ地域全体を支配することに失敗して結局滅ぶ。これを滅ぼしたのがナシュド王国で、征服後サウジアラビアになるんだ。

 なら最初からナシュドと交渉を行い、経済協力・石油開発を持って行けばどうだろう。イラクはイギリス支配地域だし、中東地域ならナシュドで決まりかな。

 サウジアラビアなら天然ガスも取れるし……

 さらにロシア公国でも石油・天然ガスは採取できるようになるだろう……二か国輸入先があれば安心かな。

 

 まだ候補地はある。それは……南米地域。現在だとベネズエラは相当数石油を産出している。ただこの時期のベネズエラは軍事独裁政権で日本がお付き合いできるのかなあ。

 本当に欲しい時には値段を吊り上げられて酷い目にあいそうな気がする。

 ナシュド王国との取引が上手くいかなかった場合考慮することに父と会話し健二はそう決定する。

 

 次に鉄は第二次世界大戦前となると……アメリカとスウェーデンの二か国でほぼ全てをしめていた。この二か国に頼りつつ、ブラジルへ支援を行い鉄が産出できるようにしてもいいかなあ。

 ただ、ブラジルは政情が不安定だけど……スウェーデンと協力関係を結ぶほうが良さそうだな。

 

 ニッケル・錫などは東南アジアかあ。現状なら国内の細々とした産出でもなんとかならないかなあ。石炭もまだ枯渇してないはずだからこれも大丈夫だと思う。


「父さん。考慮した結果。ロシア公国はすでに候補に入ってるから、ナシュドともやり取りしたいってところかな」


「ああ。そうだな。この辺りをまとめてノートの人に伝えようか」


※次回は水曜日です。

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