閑話:文庫本一冊の尺の捉え方(我流)

 これからの工程でシーンを考える際には、物語全体の尺を考える必要がでてきます。

 1つのシーンの中に、数個のサブプロットの展開を達成しなくてはならないと決めた時、そのシーンにどれだけの文字数をかけて良いのか。それが分からなければ、シーンの作りようがないからです。


 新人賞等に投稿する場合にはもちろんですが、ネット小説として連載を考えた場合にも間延びする展開はあまり良くありません。

(連載ものとしての体裁を考える場合には、また別の捉え方の方が良いかもしれません。個人的には某脚本家、小◯靖子先生のやり方をオススメします)


 というわけで。

 可能な限り感覚に頼らないかたちで尺を計算するために、機械的に尺を分割する方法を個人的に考えたものがコレです。

 本当はもっと後で載せようと思っていたのですが、ここで載せてしまった方が伝わりやすいと思ったので先に載せます。


 とまあ、偉そうに書きましたが、尺の捉え方は小説の場合かなりファジーなものですし、皆様にも独自のものがあると思いますので、例によって「使えそうなとこだけ参考に」して頂ければと思います。


 では、以下に説明を交えながら分割したものを掲載します。



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 まず、この尺の捉え方は「三幕八場」と、

「小説において1つの展開を描くのに適した尺は、文庫本見開き2ページである」(※出典元忘れました。思い出したら更新します)

 という考え方を前提にしております。


 つまり最小単位は多くの新人賞の応募規定にある

【40文字×30行のA4用紙一枚】ということです。

(各レーベルの文庫本の体裁によって多少変動します)


 この最小単位を仮に「カット」と呼びます。

(※本来の用法とは異なります。

 映像関係者の方がいらっしゃったらご容赦ください)


 この「カット」は起承転結のうちの1つを描くのに丁度良い尺と考えられています。「起」を描くのに1カット、「起承転結」全て描くのに4カットということです。

 そして文庫本は概ね300ページほどですから、

 一冊150カットで構成されている計算になります。

 よくある新人賞の応募規定に従えば120カットほどです。


 そして、

 この「カット」を幾つか束ねたものを仮に「シーン」と呼びます。

 (※本来の用法とは異なります。映像関係者の方(以下略))

 概ね3〜5カットを束ねて、1シーンと考えます。

 1シーン=4カット(起承転結)と考えた場合、分割しやすい形で考えると、

 文庫本192ページ=96カット=24シーン

 ということになります。



 では、ここで少し「三幕八場」の話をします。

「三幕構成」を知らない方は以下のリンクからどうぞ。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054882605779/episodes/1177354054882609252


 三幕八場には、明確に「ここで何をすべきか」がまとめられています。

 しかも、各「場」の長さや位置は、全体の尺の長さから割合で導き出すものです。

 なので全体のシーン数を「24」と決めたならば、

 おのずと

「何枚までにどんな事件を起こし、

 どんな展開をし、

 それを何枚までに収めるか」

 が、決まります。



 例えば、24シーン構成の場合。

一つの【場】につき

「3シーン=12カット(24ページ)」。

つまり、

【一幕】と【三幕】は、それぞれ

「6シーン=24カット=48ページ」

【二幕】は、

「12シーン=48カット=96ページ」

 で、構成されていると考えれば良いでしょう。


 分割した「1場」のストーリー展開を考えるとしましょう。

ここでは「物語の発端となり事件」を描くことになります。

 ここに「セットアップ」という条件も加わりますから、

 3シーン(12カット)で、


・物語のイメージを伝えられる

・主人公が登場する。また、彼の簡単な人物像を伝えられる

・エンディングに繋がる要素を入れる


 という条件を達成しつつ、読者を物語に引き込めるような展開を考えねばなりません。更に【一幕】は基本的には1場と2場をセットにして考えるので、2場の展開や条件も加味する必要があります。

(一幕の作り方は別の工程で書きます)


 この尺の中にこれだけの情報量を入れて、それを読者に分かりやすく伝えた上で、興味をひき、場合によっては笑いを取る。

 ……正直、僕はのような凡才には厳しいです。

 でも僕のように、この辺りを感覚でこなせる才能も経験も無く、普段の執筆時間も中々確保できないため長編執筆時の失敗を避ける必要がある場合。

 明確な基準があるだけマシです。ずっとずっとマシです。

 基準さえクリアすれば、最低限度の面白さは保証されるわけですから。



 さて、話が脱線しましたが、

 要は、こうして決めた枠の中に「見せ場管理表」やその他の工程で作成した内容を当てはめていくということです。

 箱と、その中の間仕切りの大きさが決まっているのだから、あとはそこに収まるようにコンパクトで高性能なシーンを当てはめるだけ。

 ついでに言えば、こうして各展開をブロック化しておけば、

「この展開は後ろに回して、逆にこの展開を手前にしよう」

 といった時も組み替えやすくなります。


 また、全体を見通して展開や伏線、描写方法まで考えられるようになるので、少なくとも「作者が物語を見失う」なんて無様なことにはならずに済みます。

(3章とかまで書いて物語破綻してた事に気づいた時とかって惨めですよね……)


 以上、「文庫本一冊の尺の捉え方」でした。



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さて、少し余談です。

完全に思いつきの部分なので、読み飛ばして下さって構いません。


ネット小説の場合。

必ずしも「文庫本見開き2ページ」が一つの展開を書くのに最適な尺とは限りません。

というか、そんなわけありません。媒体が違うんですから。


つまり「1カット」の尺が、文庫本とは異なります。

この「尺の捉え方」の前提が崩れるわけですね。


僕の体感では「カクヨム」をPCで読む場合、2千文字ごとにページをめくるような展開で描かれている方が読みやすいように感じます。

それ以上だと正直目が疲れるし、スクロールする気が失せます。


なら、2千文字で「起承転結」を描いた方が良いのではないか? 

ということです。


仮に2000文字を4カットとした場合、1カットは約500文字。

会話文メインで構成すれば抑えられるかどうかという所でしょう。

(ここら辺は文体によって変わるかと)

しかし会話だけで成立する小説を書くつもりが無いならば、尺の捉え方を少し変えねばなりません。


例えば2000文字の中に無理に4カットの展開を入れようとするから困るのだから、3カット程度で展開するストーリーを考えるとか。

起承転結の「結」を抜いた形で「起承転」をひたすら繰り返し、ページをめくらせるとか。そういう工夫が必要なのだと思います。

そうすると当然、全体の尺の捉え方にも影響が出るはずです。


そして更に言えば、

カクヨムの場合、商業デビューをする際には、

物理書籍による出版と、電子書籍による出版がなされています。

これを見越した場合に、どういった尺の取り方が良いのだろうかという話。

ネット小説のフォーマットに合わせてシーン構成したものが、果たして物理書籍のページめくりのタイミングと合致するのか?

電子書籍の場合には、そもそも読者が1ページの文字数を変更できるため「1ページの尺から全体の尺を測る」ということが意味を成しません。


まあ、今が小説媒体が変わる過渡期にあるので、過去のやり方が通用しなかったり変更を余儀なくされているという程度のことだと思います。

僕自身に関して言えば

「そんな細かいことに悩む前にもっと面白い物語を書く」方が大切ですし。


この工程表だって、所詮は面白い物語を書く為の「道具」です。

「道具」が古くなって使えなくなったら、新しい「道具」を使えば良い話。



もし皆様の気が向いたら、

使えそうな「道具」を教えて頂ければ幸いです。


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