四十六箇所目 大岡信ことば館 静岡県三島市

 地元ゆかりの作家の記念館や文学館は、公立のもの、企業のもの、学府のもの、作家ゆかりの人によるものなどがあります。

 今回訪れた大岡信ことば館は、企業ゆかりから学府ゆかりへと移ることになった、文学記念館です。


 この館の主人公、詩人で評論家の大岡信は、昭和61(1931)年に静岡県三島市で生まれました。

 昭和54(1979)年から平成19(2007)年まで朝日新聞に連載した日本語の詩歌を毎日一つずつ取上げて解説したコラム『折々のうた』がよく知られています。


 三島を舞台にした現代ファンタジー『あやかし冥菓見本帖 https://kakuyomu.jp/works/1177354054884556736』を書くに当たって、資料集めに三島を訪れた折に立ち寄ってみました。


三島駅で新幹線を降りて、北口へ。

こちらへ来るとつい寄ってしまうお寿司屋さんでランチのちらし寿司をおなかにおさめて、一服してから向かいました。


新幹線のホームから見える通信教育会社のビルの中に、大岡信ことば館はあります。

文学館でも個人名のみの作家館でもなく、ことば館。

ことばで表現し続けた詩人ならではの名称だと思います。


広いエントランスホールの右手に受付とミュージアムショップ。

沢山の著書が扱われていました。

過去の企画展では、新海誠やますむらひろしといったアニメーションやコミックの世界も開催されており、関連グッズが並んでいました。

後ほどゆっくり見ることにして、展示室へ。


 「大岡信 追悼特別展」

 ことば館での最後の展覧会でした。



 言葉が、詩が、大きく染め抜かれた反物、パネル、オブジェ。

 壁にも言葉が。

 言の葉が。

 ことばが。

 見下ろすと足下にも。

 ことば、による仕掛けがそこここに。



 パネルに掲示された詩の下にポケットがついていて、そこに詩が記された紙片が。

 気に入った詩の紙片を持ち帰ることができるようになっていました。


 そういえば、世田谷文学館の林芙美子の展覧会でも、気に入ったフレーズの紙片を持ち帰ることができるようになっていました。


 インパクトのある言葉の展示方法が、記憶に新しいです。


 従来の展示によくある初版本や作家の身のまわりのものを展示するだけでなく、作品の力を表現する展示方法。


 ことば、文字は、デザインされたものであったなと、思い起こされました。


 一文字でも、心に切り込んでくる。

 ことばの面白さ。


 独特の展示方法で、ことばの持つ力、広がり、沁み込んでいく過程など、体感できる展覧会でした。


 ことばは、一度人間から発せられると、生きものとなる、というのがよくわかります。

 小さな文字の連なりとして見るのと、大きく書かれた一文字一文字、一語一語がその意味を包含して、どーん、どーん、と、せまってくるのとでは、明らかに言葉に対すると認識が変わります。

 こうした文学とアートの融合した展示を体感できる場所が、もっとあるといいなと思います。


 ショップで手にした一冊『西湖詩篇 若き日の大岡信』には、大岡信が幼なじみの彼女の結婚祝い贈った手作りの詩集が収録されています。

 富士五湖の中でとくに静けさの感じられる美しい西湖での、彼女を含めた友人たちとの青春の日々の思い出がつづられた詩集です。


 『伊豆文学散歩』

 伊豆は、数多の作家たちが訪れ、旅し、逗留し、執筆した地です。

 この本は、作家ゆかりの温泉宿や伊豆に点在する文学館などが紹介されており、伊豆の文学散歩に便利な一冊です。


 残念ながら2017年11月27日に閉館となりましたが、原稿等は明治大学に寄贈され、2020年開設予定の明治大学「大岡信文庫(仮称)」に収蔵されるとのことです。




<大岡信ことば館 三島市>

最寄駅 JR東海道線 東海道新幹線 伊豆箱根鉄道駿豆線 各三島駅


大岡信ことば館のホームページで詳細をご覧いただけます。

http://kotobakan.jp/

2017年11月27日に閉館。

原稿等は明治大学に寄贈後、2020年開設予定の明治大学「大岡信文庫(仮称)」に収蔵。


<今日買った本>

『西湖詩篇 若き日の大岡信』市川市文学プラザ企画展図録②

豊田奈央子(大岡信ことば館)編

株式会社増進会出版社 大岡信ことば館刊


『季刊ことばのしごと第13・17号 大岡信ことば館だより』

株式会社増進会出版社 大岡信ことば館刊


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