第6話 バレンタインデー

 ――僕は、この日の晩に夢を見た。


『玲君。おはよう! 放課後、ちょっと残っていて』

『了解』


『男子空手部、本日もお疲れ様でした』

『お疲れ様でした!』

『これは、私物。私からの友チョコです。これからも、仲良くしてくださいね』

 小さいハートにアイスボックスクッキーが三個ずつ入っている。


『さあ、部活、終わった終わった! ひなちゃんのいつものご親切に対してなんですが、新しい演武をご覧ください』

『え? 意外だかなんだか分からないけど、ありがとうね』


 しゅっ。


『はっ! はあっはっはっはっ! たあっ! やあっ!』


 だんっ。


『美舞、凄いわ!』

 拍手をしてくれた。


『はーい、ひなちゃんへのバレンタインデープレゼントの演武でした』

 びっと礼をした。


『お疲れ様でした、自分』

『お疲れ様でした。美舞』


『これは、チョコレートのお菓子、昨日のだけど良かったら』

 ラッピングは、うちにあったゴルビの包装紙だけ拝借して、中身はアレである。


『玲君、着替えたら、体育館裏に来て』

『あそこは、先客が沢山だよ?』


『じやあ、校庭とか』

『見れば分かるけど、お客さま沢山だよ』


『ガーン!』

『どこでもOKだよ、美舞。気にすんなって』


『気になるでしょう? どうしようか? 玲君はそうは言っても。ああ、どうしようか? どうしようか?』


 ――目が覚めた。


「はあっはあっ。変な汗……」


 今日は、バレンタインデー当日、二月一四日。


「夢のままになるとは、限らないよね?」

 徳川学園のベージュのブレザーにピンクのリボンの制服に着替えた。

 鏡を見ながら髪を編んだ。


「玲君に上手く渡したいな。下駄箱や机の中はどうかな……。恥ずかしいから」


 大切な事は、父さんから教わった。

 母さんもいつも僕の何かを見ていてくれた。

 親友のひなちゃんには、返しがたい程の恩がある。

 玲君は……。


 シャラン。

 シャラン。


「行って来ます!」


 風がほんのりと撫でる様に吹いた。

 僕の編み込みは、少し乱れた。

 春はこれから。


 美舞の恋心は、次第に移り行くご様子。



 父さんから、玲君に……。





Fin

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美舞☆バレンタインデーの長い前夜 いすみ 静江 @uhi_cna

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