かなりの寂しがり屋が人が居ない世界に迷い込んだら
ITATI(イタチ)
第1話
「兎咲(とさき)〜起きなさ〜い」
下の階から私の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。声からしてお母さんだろうと思うけど…
少しぼぉーとしてからベットから起き上がりボサボサの髪のまま下の階へ降りていく。
リビングに着くとエプロンをして朝ごはんの支度をしているお母さんがいた。
「兎咲起きたのね、ってまた凄い髪ね、ちゃんと直しなさいよ?」
「分かってるよ、いただきまーす」
まだ鏡を見てないからどれだけ髪がボサボサなのか分からないけどとりあえず今は目の前の朝ごはんを食べる事にした。腹が減ってはなんとやら、だ。
「久しぶりの学校ねぇ。兎咲は春休みずっと家に居たわね」
「最近は電子機器が進化してるから家の中でも不自由なく生活出来るから良いのー」
自分でもよく分からない言い訳をしてついていたテレビに目を移す。するとそこでは朝のニュースが放送されていた。特に気になる事は言っていなかったがつい見てしまっていた。
「ゆっくりするのもいいけど慎兎(まさと)君そろそろ来るんじゃない?」
「あ、そっか。忘れてた」
朝ごはんを食べ終え野菜ジュースを飲み干すと髪を直しに洗面台まで向かう。鏡を見るとなかなかなボサボサ具合で少し憂鬱になる。髪の色は白く短髪で顔は整っている方だと、思う。1番目立つのは赤い目だ。あまり気にはしてないけど。
「それじゃあいってきまーす」
返事を待たずにドアを開けると家の前では既に1人の青年が待っていた。少しぐらいなら遅れても良いのに未だ1回も遅れたことがない。
「おはよう、咲」
「おはよ、慎。待たせたね」
「大丈夫今来た所だから」
2人で登校するのは幼稚園の頃からなのでもう慣れている。学校までは春休みにあった事などを話しながら15分程度の道のりを歩いていった。春の陽気が家に篭っていた体にいい刺激を与えてくれる。たまには外に出ないといけないな〜と考える兎咲。
話は変わるが学校に着くとまずはクラスを確認しなければいけない。知り合いがいればいいんだけど…
クラスに知り合いがいたかと言われると慎兎ぐらいだったがいないよりはマシだと割り切った。特に授業などがある訳では無いので軽い先生からの挨拶があると今後の授業の事などを伝えられてそのまま解散となった。学校に残る理由も無かったので慎兎と学校を後にした。
次の日からすぐ授業が始まりだし新しいクラスにも少し慣れ始めた頃に不思議な事が起こった。
ある日の授業中にお腹が痛くなったのでトイレに行った時だった。手を洗って外に出た時に軽い電流のような衝撃が体に走った。最初は何とも思わなかったが今思えばそれがこの現象の始まりだと思う。
教室に戻る為には他の教室を2個ほど通らなければならない。普通なら授業をしているはずの時間なので少しぐらい声が聞こえてもいいはずなんだけど…。生徒の声や先生の声すら聞こえない。文字を書く音や少しの動作音も聞こえない。不審に思ったので教室を覗いて見るとそこには空になった教室の姿があった。
「どうなってんの…これ」
何かのイタズラと思いたいが流石にそれは無いと頭が否定してくる。黒板に文字が書かれている辺り本当にさっきまで授業をしていたんだろう。この場所で。だが今は違う。明らかにおかしい。
「まさか…!」
少し焦りながら隣の教室を見ると案の定誰もいなかった。多分自分のクラスも誰もいないだろう。一体今何が起こっているのか?そんなの私がわかる訳が無い。寧ろ教えて欲しいぐらいだよ…。
「タッタッタッタッ……」
突然聞こえた足音に敏感に反応した兎咲は誰かがいるかも知れないと思い音のした方まで走って行く。廊下の角を曲がるとそこには何も無く何もいなかった。
「さっきの足音は……私の気のせい?」
人がいて欲しいという願望が幻聴を聞こえさせるまでに至ったのならそろそろ休んだ方がいいかも知れない。だがこんな状況で休んでなどいられない。心がどんどん何かに浸食されていく。人が居ないという事がこんなにも自分に恐怖を植え付けるとは微塵も思っていなかった。早く安心したい。安心したい。それだけが願いだった。
「あれ、こんな所に珍しく人がいる。迷い込んだのか?」
「あ、あぁ…」
人だ。そう思うと口から情けない声が漏れる。だがそんな事は気にしない。さっきまで不安と恐怖が入り混じった気持ちだったのだ。安堵で声が漏れるのは仕方がない。
「かなり怯えてるけど…そんなに怖い事でも起きたのか?」
「きょ、教室にさっきまで居た、人達が、居なく、なって…」
「まぁ落ち着いて。少なくとも死んだりはしてないから、ね?」
そう言われた後何故か徐々に落ち着きを取り戻した。まるで魔法をかけられたかのように。さっきまでの気持ちが嘘のように消えた。
「人が居ないだけでそんなに怯えてるのは珍しい…。よっぽど寂しがり屋なのかな?」
「あの」
声を掛けると同時。突如目の前に黒い生き物の様なものが存在しているのが見えて言葉が途切れる。
「お、出たね〜。思っていたより小さいから見つけるのに苦労したよ〜」
男は嬉しそうに、しかし少し疲れたような声で話す。全くついていけてない兎咲はただただその光景を見ているだけだった。だが少し頼りないがどこか安心するような背中を見て気が緩んだのか。そのまま意識を失った。
かなりの寂しがり屋が人が居ない世界に迷い込んだら ITATI(イタチ) @itati0205
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