第23話

寒い・・・

夜はとことんまで冷える。車の中でもひしひしと伝わり、体の芯まで冷やしてしまう

不注意から俺は腐った缶詰を開け、服の袖口にかかってしまう。

これが強烈に臭くて、今までに味わった事が無い臭さだった。そして俺は咄嗟に

上着を外へ放り投げてしまい、その場を立ち去った。他人が観たら、臭程度で

服ごと投げ捨てるのは理解できないかもしれない・・・だが、本当に臭かった

あのまま臭においを嗅いでいたら、俺は意識を失っていただろう。


そしてその匂いが、未だに車に充満しているのだ。後部座席の窓を開けながら

走行をしているが、それでも堪らない臭いをしている。駄目だ・・・とても居られない

だが、問題は上着だ。捨ててしまった上着の代わりを見つけなくては・・・。

臭くて堪らない・・寒くて堪らない・・くそッ! 何だってこんなことに・・・



そうこう考えていると、看板が目に止まる。大きな看板だ。それは大手デパートのもの。

近くにデパートがある・・・。総合デパートなら、衣服を売っているブースがあるはずだ。

これは行ってみる価値はあるな。俺はそちらの方へハンドルをきった。



大きな駐車場に車が放置されている。だが放置のされ方がおかしい。

車が重なっていたり、タイヤだけが外されて積み上げられていたり、

車の一部を剥ぎ取って造ったオブジェが地面に突き刺さっていたりと

明らかに誰かの手が加えられている。かなり仰々しい物も見受けられる。

もしかすると複数の人間がここにはいるのかもしれない。


徒党を組まれていれば、一人では分が悪い・・・が、三人組の件もある。

図に乗るのは良くないが、切り抜けれる可能性があるのなら、今はそちらに

賭ける。俺は不気味な駐車場を抜け、目の前にそびえる、デパートの中に足を

踏み入れた。



中は閑散としている。もっと物が散乱しているのかと思っていたが・・・。

ただ、ショーケースなどのガラス類が割られて、地面に散らばっている。

俺はガラスを踏み砕きつつ、慎重に足を進める。


進んだ先はフードコートだ。普段は賑わうこんな場所も、静まり返っていると

不気味だな。


カタ・・・カタカタ・・・


なんだ? 何かの音が聞こえる。

俺は懐中電灯の光で辺りを照らす。フードコート入口に

血痕が見える。ただかなり時間が経っているのだろう。黒ずんで

まるで炭のようになっている。踏むとパリッとポテトチップスでも踏んだかの

ような音が鳴る。血の痕はかなり広範囲にあり、地面を見ると引きずった跡も確認できる。

しかも複数、何かを引きずった後だ・・・俺はその後を辿っていく



ゾンビだ・・・フードコートの椅子にゾンビがくくりつけられている!

一つや二つじゃない! 俺は懐中電灯でフードコート全体を見回した。

丸机に設置された椅子、そのほぼ全てにゾンビが固定されている!

しかもまだ生きている奴もいるぞ。あの聞こえた物音はこれだった。

生きたままくくられたゾンビが椅子を揺らしていたのか・・・

しかしさらに俺は驚く事になる・・・





・・・・・・・・・ぴちょ・・・・・・・・・・ぴちゃ・・・・・・





なんだ? なにか・・・音がする・・・


水・・・? 


何気なく、俺はライトを天井に向けた。



そこには吊るされている複数のゾンビの姿があった。首や手、足など様々な

ところにロープを引っ掛け、天井から吊るされているのだ。

そしてそのゾンビには何かが取り付けてある。よく見れば商品ポップや

看板、コーナーの宣伝用の幟などが無造作に括りつけてあるのだ。



これは・・・


俺は息を飲んだ・・・


一体誰がこんな事を。どうやってこんな天井にくくりつけたんだ?

そもそも目的がわからない。こんなことして何になるってんだ?




突然、フードコート奥のイベントスペースがライトアップされる!!





暗がりが照らされ、浮かぶシルエット。強い光に、俺は目の前を腕で覆い隠した。

目が慣れ、光に照らされた物がハッキリしてくる。



「みんんなぁ~~~!! 今日は、ぱ、ぱーてぃニキテくれててありりがど~~~」



突然の声、浮かび上がる姿。人間の皮をツギハギしたような不気味な容姿。そして

首から掛ける小さな女の子用のエプロン。その男の両脇には黒い袋に入った何かが

計りのようなものに吊るされている。しかもまだ動いている! なにか声が聞こえる

ような気がするが・・・もしかして中にはゾンビか、人間が入っているんじゃ・・・


いや・・・それよりも・・・

俺はこいつを知っている! 以前、旅館の廃墟で出会っている!! 

クソッ!! 何だってこんなところでッ!?


俺は銃を構えた。だが、その男は怯む様子はない。



「キョウわ・・お・・おでが腕によりをカケデつくっだ「リョウリ」を・・ふる・

まうむ~~~ッ!」



な・・何だって? なにか聞き取れないような声で叫びだした。なんだ? 何をする

つもりなんだ。そう言うと男は奥から大きな寸胴鍋を台車に乗せて持ってきた。

そして吊るされた片方の黒い袋を胸元に抱き寄せる。




メキ・・・・メキメキ・・・バキャウッバキ・・・・バキバキバキッッ!!!!




フードコート内に響く異様な音。音が収まると袋の下、先端から一筋の赤い

液体が、寸胴鍋に注がれていく。黒い袋はほんの少し跳ねるように動いた後、

そのまま動かなくなった。男は尚も両腕を離さず、雑巾を絞るように、腕をねじり

始める。バチャバチャとより一層の血液が先端より流れ出る!


「とクセイのそ・・・ソースでおいわいぃぃだどぉおおオオ!!!

 ミみんなおいしくタノシンでいってねェえええッッ!!!」


そう言いながら男は椅子にくくりつけたゾンビの前に皿のようなものを並べ始めた。


これは・・・・うん・・・関わっちゃいけないやつだ


俺はゆっくり振り返り、来た道を帰ろうとした・・・・が

振り返った先には、既に男の不気味なツギハギだらけの顔がある!!


「お・・・オォォオオおおひさしぶりだねええ・・・た、タベに来てくれたんでショ?

 ソウナンデショ? そうナンダよね? うんっ!! わがってでりゅヨオオッ!!」


俺の事を覚えているらしい。男は俺の肩を掴むと、近くにあった椅子へ

無理やり座らせる。ご丁寧に首元にはボロ雑巾のナプキンまでつけてくれる親切ぶり。

しかもこのナプキンは椅子の背もたれに引っ掛けられていて、すぐに立てない状態に

なっている。 この状況・・・やっぱりまずい・・・だが、こうも考えられる。

今、奴の言動から、俺に敵意は無い事がわかる。むしろ友好的じゃないかと。

そうすると話くらいはできるかもしれない。なら話術をもって切り抜けられるかも・・。

俺は思い切って会話を試みる。


「あの~・・ちょっといいですかね?」


男はにやけた表情で首をかしげる


「トイレに行きたいんですけどいいっすかね?」


すると男の表情から、笑顔が消え、真顔になる

「・・・まなーイハン・・だよ・・・」


「・・・・ですよね~・・・」


トイレで席を立つ作戦は失敗か。しかしなにか手はあるはずだ。

そうこう考えてる間に、目の前に何かの部品の一部を引き剥がした

ようなものが置かれる。もしかして・・・フォークのつもりか?


「いイっぷアイイたべりゅようねぇ・・ぱーてぃダカラねぇ!!!!」


血液の入った寸胴鍋を大きなお玉でかき回しながら、各テーブルを回っている。

そして俺の場所までやってきた! 


ギュチャッ!!


音と共に目の前に血液に濡れた何かが置かれる! 

その瞬間ひどい臭いが辺りに漂う。黒く灰色に濁った肉の塊。

何の肉かはわからないが、決して口に含んではいけないものである事はわかる。

俺は男の顔を見る。男も俺の顔を見ている。言葉は発せずとも「食べろ」という

無言の圧力を、目で語ってきている。


冗談じゃないぞッ!!

早く逃げないと!!!










ただ上着を探しに入っただけで・・

くそっ・・・・・・何だってこんな事に・・・




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MAN EATER ブノサマ キザカオ @bunosama

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