第3話 UN現象
※この作品は2014年 12月14日に「小説家になろう」の活動報告に投稿したものを再編集したものです。
前からつらつら思っていた事だが、同時代の経験と、後世から見た視点というのは、わずか30年ほどでも相当に違う物になってしまうことがある。
私の経験からいうと、プロレスの「UN王座」というのは、正にそれではないかと思えるのだ。
私がプロレスに本格的に興味を持ったのは、所謂「三銃士四天王」時代だった。チャンピオンベルトは、既に新日IWGPはベルト化しており、全日は三冠王座に統一されていた。
そこでプロレス史に興味をもって過去の話を書籍などで読んだりしていくうちに、全日の三冠王座というのは、「インターナショナル」「PWF」「UN」の3つの王座を統合したものだということを知った。
このうち「インターナショナル」については、日本のプロレスの父、力道山が鉄人ルー・テーズから奪取したという由来や、漫画「ジャイアント台風」(作画:辻なおき、原作:朝森高雄=梶原一騎)での扱いを見て、歴史と伝統のある凄い王座である、ということが分かった。
もちろん梶原一騎の漫画をノンフィクションと思うほど純情じゃない(笑)。「これは事実である」とか言って600%くらいふかすのが梶原イズムだ。でも、雰囲気は伝わるだろう。
「PWF」については、「馬場の、馬場による、馬場のための」ベルトであることが丸分かりだった。全日における最高権威であることに納得がいく。
以下、余談。このお手盛り感あふれるPWF王座を見ていたからこそ、猪木は「猪木の、猪木による、猪木のための」第一回IWGPで、そのお手盛り性を否定したくて、ちゃぶ台返しをしたのではないかと思える。これは、それこそ後世からの視点だと思うが。閑話休題。
それでは、三番目の「UN」は?
これは、歴代チャンピオンを見ると、もの凄いメンバーなのだ。最初の方の外人はよく分からなかったものの、日本人レスラーのメンバーが凄い。
アントニオ猪木、坂口征二、ジャンボ鶴田、天龍源一郎。
それに、高千穂明久という名前もあったが、これはSF作家「高千穂遙」のペンネーム元として知っていたほか、「ザ・グレートカブキ」の中の人ということも「プロレス・スーパースター列伝」で知っていたので、これも有名なレスラーである。
つまり、押しも押されもせぬ、超一流レスラーばかりだ。
これだけ見ると「凄い王座だ」としか思えない。
しかし、私はその頃は大してプロレスに興味がなかったとはいえ、同時代性も一応は経験していた。ジャンボ鶴田や天龍源一郎が、まだ若手だった頃の空気を、間接的にとはいえ知っていたのだ。
少年ジャンプの投稿ページ「ジャンプ放送局」で「天龍のチョップは威力がないから禁止しろ」とか酷い読者投稿があったのをおぼえていたのである。
その頃の同時代性の視点をもって、慎重に資料を読み返してみると、UN王座の正体が読めてきた。
つまり「2番手のためのベルト」である、と。
馬場がインター王者だった時の猪木と坂口、その坂口がインター王者に繰り上がった後の高千穂、全日時代では馬場の下の鶴田、鶴田の下の天龍、と明確に2番手のためのベルトである事が分かったのだ。
だが、これは、同時代性を分かっていない場合は、かなり資料を丹念に読み込まないと分からないことではないだろうか。
たった30年でも、こういう事があるのだと思い、こういう過大評価を「UN現象」と勝手に名付けて自分の戒めにしているのである。
糸氏のプロレス 結城藍人 @aito-yu-ki
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