第6話

 トモを、なんとか倒した。ポコがあたしから出てきて、完全同調を解除する。右肩に着地する。

「ハルナ、心配をかけました」

「いいんだ。無事に戻ってくれば。おかえり、ポコ」

「ただいま戻りました」

 よかった。本当に。キュウビはあたし達のやりとりを見て、ニッコリと微笑んでいる。

「ありがとう、キュウビ。お前のおかげで、なんとかなったよ」

 そのままキュウビに抱きつく。彼女がいなければあたしは冷静さを失ったまま、ただ一人で慌てふためいて何もできなかっただろう。失ったと思っていた、彼女の魂が、ここにある。感動のあまり泣きそうになったが、ここで泣いていてはあたしらしくないだろう。ぐっと堪え、立ち上がる。キュウビはそのままもう一度こちらを見ると、影に戻った。

 時を同じくして、メリーゴーランドは先とは逆向きに回り、上昇をはじめる。ひと段落ついたみたいだ。流石に疲れた。目玉から羽を抜き、魔法で癒す。先ほど捨てた金属バットを回収し、影に戻す。そのまま座り込んでしまった。ゆっくりと、上に戻るのを眺める。ぽつりぽつりと、ポコに語りはじめる。

「なぁ、ポコ。あたしは、ずっと一人でも、生きていけるんじゃないか、人知れず生きていくことができるんじゃないか、そう、思っていたんだ。とても、できやしなかった。お前が捕らわれ、もう、帰ってこないんじゃないかと思った時、そう、確信したんだ。お前がいないと、あたしはあたしでは、なくなるんだ、と」

 ポコは黙って聞いてくれる。

「あたしにベースを遺して死んでいった、一人目の相棒がいたんだ。あいつが右利きだったから、あたしは右利き用のベースを使っている。消えたと思っていたあいつの魂は、このベースと共にずっとあたしの側にいてくれたらしい。そして、白銀のキュウビとして、ずっと、ずっと、あたしを見守ってくれていたんだ。お前がいなくなってすぐに、あたしの決意と共鳴して、彼女の魂は形として現れた。それでわかったんだ。あぁ、あたしはこんなにもお前のことを思っていたんだ、お前にこんなにも依存していたんだ、とね」

 帽子を深く被り、ポコも語りはじめる。

「私は、はじめから貴女に半分くらい惚れていた節が、ありました。この女性となら、どこへでも行ける、二人でならば、とね。そういう意味で、私も貴女に依存していました。なに、こういうのはお互い様じゃありませんか。お互い好きでこうやって行動を共にしているんです。私は貴女と違い、孤独だった年月は少ないと思います。何十年もの間、誰にも知られず、触れられず、生きていく、私にはとてもできることではありません。我慢強い、芯の強い貴女だからこそ耐えられたことだと、私は思います。そういう強さに、私は惚れたんです。でも、だからと言って、一人でなんでも抱え込もうとは、思わないでください。私は貴女の力になりたいのですから。一人目の相棒と比べて至らない点も多いかと思います。それでも、今の相棒として、私は私なりの方法で、答えを見つけて生きます。私たちは二人で一人なんですよ」

「……ありがとう、ドクトル」

「私こそ、感謝していますよ。春奈」

 しばらく無言の時が流れる。一人目の相棒のことについては、また今度しっかり話そうと思う。今はただ、この相棒との幸せな時間を過ごしたい。

 空が見える。どうやら地上まで戻ってきたようだ。黄昏の空に美しい夕焼けが映る。外に見える遊園地は先ほどまでいた遊園地と違い、本来ここにあるべき遊園地の姿へと戻っていた。そして、メリーゴーランドの外では、見覚えのある懐かしい人物が立っていた。最初はむすっとしていて、次に再会を喜ぶ表情を、そして驚きの表情を見せる。リリーだった。

「ハルナちゃん!? どうしたのそんなにボロボロで!?」

 立ち上がりつつ、声をかける。

「やぁリリー。久しぶりだな。いやなに、ちょっとトラブルに巻き込まれてな。久々に激しすぎる戦闘をしたらボロボロになってしまったんだ。心配することはないさ。それにしても、なぜリリーがここに?」

「私の会社のグループ会社がこの遊園地の管理と運営を任されていてね。一週間前から原因不明の機材トラブルで開園できなくなっていたの。で、その原因を私が調査するように頼まれていて。調べていたら突然メリーゴーランドが地下に潜り始める様子を監視カメラが捉えたから、様子を見にきたの。そしたら地上にメリーゴーランドが戻ってくるわハルナちゃんが乗ってるわで……」

「たしかに、それは驚かせたな。すまない。なにが起こっていたのか、このあとゆっくり話そう。原因は解消したから問題ないと思う」

「ありがとう。それならば、私の家にこない? 紅茶くらいなら出せるし、その服も直せると思うし。あと、呼べばニアちゃんもくるんじゃないかな」

「それはいいな。助かる。あと、服ならポコに直してもらうよ」

 ふふっと、リリーに笑われる。なんだ。

「いや、以前出会った時よりも、二人ともより信頼し合ってるように見えたの。なんでかはよくわからないけどね」

 おそらく二人とも、苦虫を噛み潰したような顔をしていたと思う。

「私を助けてくれた時の二人も、とても頼もしかったけど、今の二人はもっと頼もしいの。なんだか長年連れ添った夫婦、みたいな感じ」

「褒め言葉として受け取っておこう」

「光栄な言葉だと、思っておきます」

 なんか二人で同じようなことを言ってしまった。ますます笑われる。畜生。

 行こう、とリリーが声をかけてくる。そのままニアに電話をしつつ、遊園地の出口の方へ歩き出す。置いていかれるわけにもいかないので、ポコと二人でついていくことにした。

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古びた遊具に悲しき思念を けねでぃ @kenedyism

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