第5話
メリーゴーランドへ戻ってきた。お化け屋敷、ジェットコースター、そして子供遊園の鍵をそれぞれ差し込む。鉄格子を開き、メリーゴーランドへ乗り込む。メリーゴーランドの中には男の子とも、女の子とも見える、一人の子供がいた。
「お前がずっとあたしに声をかけてきていたやつか?」
「そうだよ。この遊園地で一緒に遊べる友達を探していたんだ」
「友達、ねぇ」
「今まで何人もこの遊園地へ招待したんだけれども、みーんな、元の世界へ帰りたいって言い出すんだ。どうしてだろうね。元の世界では、みーんな一人ぼっちだったのに。一人ぼっちなんて寂しいじゃない? それならば、なにも考えずにずーっと遊んでいられる、この世界で一緒に遊んでいた方がずーっと楽しいのに」
「ずーっと遊んでいられるというのも、楽しい話だと思う。しかし、辛い事の合間合間に、楽しいことがあるからこそ、その楽しいことはずーっと楽しく感じられるわけだ」
ある世界にいる金髪の少女のことを思う。あれからそれなりに年月が経った。そろそろ年齢相応の気高き女性になっている頃だろう。数年前に救いの未来を魅せた二人の女性のことを思う。彼女達は今でもこの世界で平和に暮らしている。また二人と共に何かしたいと思う。二十数年前に出会った一人の青年のことを思う。当時青年だった彼も、妻子持ちの立派な男性になった。煙草もやめ、最近は二十歳を迎えた娘と共に晩酌をするのが楽しみで仕方ないという。二十数年前は苦しみに足掻いていたとは思えないくらい、幸せな時を過ごしていると思う。そして、永劫とも思える時の流れを、共に過ごした相棒を思う。彼に出会わなければ今でも最初の相棒を失った悲しみに暮れ、孤独に押しつぶされていたと思う。少し偏屈だが、頼りになる相棒。あたしにとって、彼こそが救いの未来なのだろう。
「お前の記憶を、少し、覗かせてもらったよ。ちゃんとはわからないが、多分、不幸が不幸を呼んで、誰が悪いとかではなく、お前は小さな不幸の積合せの末に、何か悲劇に巻き込まれたんだと思う。だが、お前が悲劇の主人公だろうと、あたしのドクトルを攫っていい理由にはならない。だから、残念ながらお前の要望には応えられない。あたし達には帰るべき場所がある」
ーーお母様が過労で亡くなられてから、人形以外に心を開かなくなってしまったの。
ーーお願い、古びた遊戯に囚われた、悲しきあの子の思念を、解放してあげてください。死神様。
「やーっぱりハルナもそう言い出すんだ。いいもん。本当はハルナと遊びたかったんだけど、トモはさっき捕まえた烏とこれから遊ぶんだ」
そういうと、目の前の子供、トモは大きめなカラスのパペットを取り出す。帽子を被ったおしゃれなパペットだった。
「いいでしょ? これからこのパペットとずーっと遊ぶんだ。ハルナはお邪魔虫。帰ってよ」
「……ドクトルはあたしの男だ。悪いが返してもらおうか!!」
声を張り上げる。トモがむっとした表情をする。背後からドス黒いオーラが出る。やはりお前がドクトルを攫った張本人か。鎌を構える。
「せっかくだし、ハルナ、トモと遊ぼう。最期のゲームだよ!」
そういうと、場違いに明るいメロディと共にメリーゴーランドが回り始める。回りながら周りの景色が上昇していく。いや、違う。メリーゴーランドが下に降りているのか。完全に外の景色が見えなくなる。メリーゴーランドの照明がつく。降るに連れてメリーゴーランドが著しい速度で朽ち果てていく。その光景はやはり流れるメロディのイメージとあまりにかけ離れていて、ただただ不気味だった。
トモが行動を起こした。伸びるアームのおもちゃでこちらに攻撃を仕掛けてくる。一瞬でこちらめがけて飛んできたが、なんとか避けることに成功する。そもそも当たらない場所にいるキュウビは悠々と距離をとっている。こちらからも攻撃を仕掛けるべきだろう。なんとしてでもあのパペットを取り返さなければならない。カードを複数枚展開し、さらに鎌を持って突撃する。カードに先行させて、トモの気をそちらに逸らさせる。トモの腕めがけて鎌を振ろうと、トモに近づいた時だった。地面から一枚の大きなドミノが飛び出してきて、鎌の攻撃を妨げる。くそっ。
「そーんな単調な攻撃じゃ、避けられちゃうよ。そうだ、このパペットで遊んでみようかな。偽りの風よ、トモを導く絆となれ!」
パペットから螺旋状の風が吹く。そのまま大きくなり、あたし達を巻き込みつつ、強く吹く。風と共に飛び交う羽に斬られる。くそっ。
「隙だらけだよ!」
トモが鞭を叩く。すると何処からともなく火の輪が現れ、炎を纏った獅子が突撃してくる。羽に斬られつつ、一発目は避けられたが、二発目は厳しい。キュウビが獅子との間に割って入る。そのまま獅子を吸収する。九本の尻尾が赤く光り始める。それを見たトモは鞭を叩くのをやめる。三発目まで獅子が出てきて、それもキュウビが吸い込んだ。獅子の攻撃は止められたが、羽の攻撃が未だに収まらない。このままだとジリ貧だ。羽と旋風を止めなければならない。しかし、先のように中途半端な攻撃で突撃してもドミノに止められるだけだ。つまり、大火力でドミノごと薙ぎ払うか、裏をとるか。裏をとる……?
「キュウビ! トモの周りを飛び跳ね続けてくれ!」
キュウビならば、しばらくトモの周りを飛び跳ねていてもダメージはそんなに受けないはずだ。羽による蓄積ダメージが溜まりきる前に、ワンチャンスを見つけなければならない。キュウビが前に出る。キュウビの影に潜り込む。優雅に踊り始めるのを影から確認する。伸びるアームを華麗に避ける。現れたドミノを蹴り、その上に立つ。ドミノの影を伝い、トモの影に潜り込む。影の中で鎌から金属バットに持ち替える。ドミノから降り、キュウビが攻撃を放つ。楽々避けるトモ。避けたその瞬間に、トモの影から飛び出し、パペットを持つ腕めがけて金属バットを振り下ろす。突然の奇襲に対応が遅れたトモは金属バットの攻撃をもろに受ける。パペットが手から離れる。羽による攻撃が終わる。パペットを奪い取ろうとするが、トモに先にとられてしまう。そのまま距離をとられる。
「まさかトモの影から出てくるとはね。ちょーっと予想外」
トモがでかい声で独り言を言っている。パペットを抱きつつ、トモが次なる攻撃を仕掛けてくる。大きな箱を投げたかと思うと、その中から人形が飛び出してくる。どうやらびっくり箱だったようだ。時間を稼ごうと言うのだろうか。キュウビと自分の傷を魔法で癒しつつ、相手の出方をうかがう。金属バットの一撃は強烈だったのか、殴った方の腕はあまり機能していないようだ。パペットは腕にはめられていないおかげか、羽による攻撃もしばらくは来そうにない。ここが猛攻撃を仕掛けるチャンスだ。びっくり箱を大火力で薙ぎ払い、ドミノの壁を掻い潜りパペットを取り戻そう。ならば、消費の荒さを気にしている場合ではない。
「冷たき遺志よ、今、吹き荒ぶ嵐となり、現世に轟け! 疾れ! アサルトブリザード!」
トモ諸共巻き込むような角度でアサルトブリザードを叩き込む。その時だった。キュウビが溜め込んでいた炎をアサルトブリザードに載せて放つ。氷と炎を同時に纏い、嵐はびっくり箱とトモに襲いかかる。びっくり箱は一瞬で崩れ落ちる。今しかない。金属バットを捨て、トモ目掛けて走り出す。咄嗟の判断でドミノを出してきたが、出現するドミノに足をつける。そのまま立ち上がったドミノの上からトモ目掛けて飛び降りる。
「こ、こないでよ!!」
動く方の腕にパペットをはめ、羽をこちらに飛ばしてくる。構うものか。羽を正面から受ける。右目に刺さるが知ったこっちゃない。トモに飛びかかり、押し倒す。腕から強引にパペットを奪う。パペットに腕を突っ込み、中からポコを引き抜く。魂を失ったパペットは無地の布に戻る。ポコは上空に飛び立ち、そのままあたしに飛び込んでくる。完全同調か。しかし、普段以上にポコと感覚を共有している気がする。
「ハルナ! 今がチャンスです! あいつに、トドメを!」
完全同調中にも関わらずポコの意識が残っているようだが、まぁいいだろう。キュウビもこちらを見て、頷く。
「三位一体! これがあたし達の、ラストリゾートだ!!」
叫びながら、氷の衝撃波を放つ。ポコがあたしの羽から黒い羽根に包まれた衝撃波を放つ。キュウビは炎の衝撃波を放つ。三つが合わさり、螺旋状の光線になり、トモ目掛けて突き進む。そのままトモを貫き、消しとばした。
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