第16話
「聞きたいこと?」
そう言うとアイラはこくりとうなずく。
そりゃ、聞きたいことはたくさんある。まず、アイラの出身がはっきりしない。スロニって国を信じていないわけじゃないけど、実際問題存在していないので。地名かとも思ったけど、調べても出てこないし。あとは、その首の模様。気になる。おばあちゃんと生活してた時はどうだったのかとか、アイラの両親について、とか。
それらを直接アイラに聞いていいものか、けれどアイラに聞く以外に方法がない。あんまり聞きすぎてアイラに嫌な思いをさせたくはない。でも、いつか聞かなければならないことだ。
「聞きたいこと…うん、ある」
「こたえるよ、わたしがわかることなら」
アイラがじっとこちらを見てくる。そこに、嫌悪とかは無いが、不安とか、まして喜びも感じられない。なんというか、表情がないというか。
「えっと、じゃあ…。あのね、アイラを疑うわけじゃないんだけど、アイラが居た国って、スロニって言うんだよね?」
聞くべき順番があるはずだ。頭を回しながら問いかける。
「うん、そうだよ。おばあちゃんがね、おしえてくれたの」
「わかった。…うん、落ちついて聞いてほしいんだけど、俺の知る限り、スロニなんて名前の国はないんだ。あ、でもね、俺が知らないだけじゃなくって、地図にも乗ってない」
ネットで調べても出てこないから、なんて言ってもアイラには伝わらないだろう。この言い方でよかったのか、わからなくてアイラの表情をうかがう。
「……なんとなくね、わかってたよ」
返ってきた言葉は想像していたものとは違った。臆した様子もなく、アイラは変わらぬ表情のまま続ける。
「ゆめかな、っておもってたんだけどね、あさおきてもおにいちゃんはいたし、ごはんもおいしかったの」
「おにいちゃんはたくさんしらないことおしえてくれた。おにいちゃんがあたりまえにやってることも、せいかつのしかたも、わたしがしってるのとぜんぜんちがう。おんなじこともあるけどね。だから、ここは、わたしのしらないところなんだって。ゆめのなかなのかなって。だからゆめからさめたら、あのまっしろなとうなんだろうな、っておもってた」
「わたしね、きおくりょくはいいんだよ、くにのなまえだっていっぱいおぼえてる。でもにほん、ってはじめてきいたの。ひびきもふしぎ。あとはね、てれびも、れいぞうこも、おふろも、ちがいすぎた。たぶん、さいしょっからちがう。」
「えっとね、むずかしいね。でもね、わたしね、むかしよんだほんにかいてあったから、おぼえてるの。おにいちゃんとわたしは、べつのせかいせんにそんざいしてて、わたしのうまれたばしょはここじゃなくって、でも、それは、わたしがしらないだけかもしれなくて、でもでもでもね、アイラは、いろんなことをしってるから」
「____あ、そうだ」
「ねぇおにいちゃん。まほうってつかえる?」
現代転移物語 方 久太 @HNK
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