第15話

湖side


 アイラの語った悪夢は、抽象的なものだった。なんか、大事なうさぎの人形(ぬいぐるみでは?)を奪われる夢なんだとか。なんで天気?


「きょうはなにするの?」


 夢を話した後は案外ケロッとした顔でおなかがすいたと訴えたアイラとともにキッチンに立った。

 本日の朝ごはんは、トーストにハムときゅうりをのっけたもの。これを美味しそうに頬張ったあと、今日の予定は、と聞かれた。特にやることもないけれど、どうしようかと思っていたところでインターフォンが鳴った。驚いたように、アイラの身体がびくりとはねた。大丈夫、待ってて。そう言って玄関に向かう。


「はーい、」

「こんにちは~少し良いかしら?」


 扉を開けた先に居たのは、近所のおばちゃん。俺のこと昔から見ててくれる人で、両親が家を空けがちな俺んちによく食べ物を分けてくれる人だ。


「こんにちは」

「朝早くからごめんなさいねぇ…これ、回覧板、それと今もお家に一人なんでしょう?これ、残り物だけど、食べてね。」


 そう言って小さめの鍋を渡される。蓋を開けると中にはおでんが入っていた。ちょうど二人前くらい。


「わ、おでん。ありがとうございます。」

「ウミくん好きでしょう?おかげで家でおでん作るときは多めに作るようにしてるのよね~」

「いつもお世話になってます」

「いいのよ、気にしないで~…ところでね、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「はい?」


 ぐいっ、とおばさんがこちらに乗り出してくる。


「昨日あなたが、真っ白な子どもを家に連れて帰っているのを見て、少し噂が上がっていたから、どうしたのかなと思って」


 そんなことだろうとは思っていたがご近所の情報網は恐ろしいものだ。尋ねてきたおばさんは俺が本当に小さい頃からお世話になっている人だ。だから気になったのだろう。アイラの事を素直に話しても話がややこしくなるだけだと思うので、親戚の子で滅多に会わないんですけど…とスラスラ出てくる嘘でその場を凌いだ。


「…そう、でも、そのこちゃんとした服も着てなかったって」


 うわ、見られたの朝かよ。


「あはは、ちょっと服持ってくるの忘れちゃったみたいで。俺の貸してあげてたんですよ」

「……大丈夫?」

「はい。だいじょうぶですよ」


 何かあったら言ってね。助けになるから、そう言っておばちゃんは帰っていった。多分、悪い人ではないから変に噂を拡げたりはしないだろう。そりゃ、アイラみたいに真っ白な子供を急に連れていればビビるだろう。まして、俺のブッカブカの服着て、この真冬にただの長靴。そりゃ怪しいわな。でも思ったより、噂が立つの早かった。


 これからは出かけるときもう少し気を使わなくてはならない。

 そう思い名がらもリビングに戻ると、アイラがちょこんとソファの前に座り込んでいた。カーペットの上にぺたりと座り込んで、昨日渡した本を読んでいる。


「…だぁれ?」


 こちらを見て、不安そうに首を傾げるアイラ。インターフォンの説明もしてない。


「近所のおばちゃん。大丈夫、いい人だよ。あとね、さっきの音はウチに人が来たよーって知らせるもの」

「だいじょうぶ?」

「うん、大丈夫」


 今日は大丈夫って言う日なんだろうか。朝から結構言ってる気がする。

 アイラの隣に座ると、アイラは読んでいた本を机の上に置いた。


「あれ、読んでてもいいよ」

「んーん、いいの」

「そっか」


 何かしようと思ったわけでもなかったので、ただアイラをなんとなく見ていると、アイラはじっとこちらを見てくる。


「アイラ、どした?なんかあった…?」


 唐突といえば唐突だった。部屋にシンと沈黙が落ちる。


「あのね、」


 昨日の朝みたいだった。アイラが何かを聞こうとしてくる。多分、これ、すごい重要なことなんじゃないか。


「ウミおにいちゃん、わたしにききたいこと、あるでしょ?」

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