第14話

 怖い夢。

 真っ白い部屋の中で、真っ白の子どもが人形一つ抱えて、塔の中でうずくまってる。周りには白い服を着た大人たちが沢山いて、少女にたくさんの魔法をかけた。

 それからたくさんの本を与えて、いろいろな訓練をした。


 子どもの持ち物はその人形唯一つ。ぴょこりと跳ねた元気のいい耳が二つ、バッテンの形に縫われた目に、きゅ、と少しだけとがったくちもと。

 これは、モンスターをかたどったものじゃなくて、どうぶつをかたどったものらしい。うさぎ、というらしい。

 ウサギって、ふわふわしてて、かわいいんだよ。あったかいし、まっしろで、君みたい。目がクリクリしてて、口がちっちゃいところも一緒。

 おぼろげな記憶の向こうで、優しい声がする。うさぎを実際見たことはないけど、ふわふわしてるって聞いて、触ってみたくなった。でも実際手元にある人形はボロボロで、全然ふわふわもしてない。


 ふわふわじゃないうさぎの手足を何度も動かしていると、ふいに影が落ちた。

 慌てて後ろを向くと、背の高い大人がいた。


「やだ!」


 キンキンと高い声が出た。大人は唸って、手を伸ばしてくる。怖い。動けなかった。


 大人の手はうさぎに伸びていた。大きな手がうさぎを頭ごとつかむ。


「やだ、はなして!!」


 いやいやと首を振って、うさぎをはなさないようにするのに、大人の力にはかなわない。すぐにうさぎはとられてしまう。サァ、とからだのなかから何かが流れていく気がした。目の前がちかちか点滅する。寒い。


 ふわふわじゃなくてもいい!


「うさぎ、かえして!」


 うさぎをもって、背をむけて塔の外に歩いていく大人を追いかけた。

 ゆっくり歩いているはずなのに、いくら走っても追いつけない。


 大人がだんだんと遠くへ行ってしまって、ぺしゃりと転ぶ。起き上がろうとするのに、足が動かない。何にも感じないのに、とたんに言うことを聞かなくなった足がうっとうしくて、足を外してしまう。

 でも、歩くための足がなくて、外してしまった足は戻らなくて、うごけなかった。


「うさぎ、うさぎ、うさぎ」


 いない。もってない。それだけで不安で、何もない気がして、どうしようもなくて泣いた。泣いたら、手が外れた。

 それから、胴体が真っ二つになって、最後には首もころりと外れてしまう。支えるものが無くなって、斜めに傾いた視界のずっと向こうに大人は歩いてしまって、みえなくなる。

 うさぎがないことがとても悲しい。けれど、あの人形はいつ貰ったっけ?わたしのものじゃない。だれの?なのに、ぽっかり穴が開いたみたいに悲しくて、どうしようもなくなって、泣いてると、どんどんからだが外れてしまうから、で、目が最後に落ちて、


_____あぁ、これはゆめなんだ、って。

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