第20話
『だってよ、起きて!』
「…え?」
予想していたのとは違う、鈴の鳴るような柔らかい声がする。
「ごめんなさいね、寝起きの悪い先生で…。」
「いえ、こちらこそ休みの日に…。」
「もう昼過ぎだってのに、模範性がなくてゴメンね…。」
お互い恐縮しているが、内心はパニックだ。
「変われ、遥、詩音、百奈。」
アキ君の機嫌悪げな声に代わる。
「ずいぶんお盛んですね、先生。」
「妹だ妹。妹と妹分の幼馴染。そんな色っぽい関係じゃねえよ。一番下の幼馴染に呼び出されて、幼馴染一同全員集合だったんだよ。あと男もいる。声したろ。」
「わかんなかったです!」
「いっそのこと清々しい返事してんなよ、似非女好きが。」
寝起きのアキ君の機嫌の悪さは有名だが、こりゃ酷い。いつもあれでも猫をかぶっていることがよくわかった。
「で?なんの用だよ?これでくだらない用事だったらはっ倒すぞ。」
「うーん、アキ君さ、うちに家族が増えたの知ってるよね?」
「編入してきてるからな。長倉歩だっけか?それがどうした。」
「彼女に雑貨とか用意してあげたいんだけど、いい店知らない?」
「よし、はっ倒す。」
アキ君が電話を切ろうとしている気配をひしひしと感じる。
「待って待って!うち男四兄弟だからよくわかんないんだよ!兄さん高い店行こうとするし!」
「知らねーよ。女好きじゃなかったのかよ。代わってやるからそっちと話せ。遥、しの、百奈出番だ。ちなみにさっき勝手に電話に出たのが百奈で灯の姉貴、二番目が遥で俺の妹。三番目が詩音だから。」
「覚えられるわけないでしょう!?」
「うるせえよ、自称プレイボーイ。俺は二度寝する。遥!」
ケータイが乱雑に放られた気配がする。
「ちょっと…兄さん?」
「いい店教えてほしいってよ、任せた。」
「んなこと言われたって…。」
兄妹の言い争う声に、他の声が割り込む。どうやらスピーカーを押したらしい。
「あっーと少年、名前は?なんて読むんだ?」
「三浦アキです。」
「暁人とかぶっててややこしい。」
「すみません…。」
多分灯さんの姉貴という人だと思うのだが、性格が違い過ぎて確信が持てない。
「百奈…ごめんなさいね、そろいもそろって…。」
「アイでいいですよ。それも多いんで。」
「それはそれでかぶるんだがな。妥協しよう。」
「「百奈!」」
二つの声に叱られているが気に留めた様子はない。
「店を探してほしいとのことだが、どういうことだい?」
「今度から同居する可愛い子がいて、その子のために雑貨をそろえたいんだと。いる場所は多分件のショッピングモール。その子のデータは俺のパソコンの横にある。」
いろいろ突っ込みどころはあるが、大筋にしてしまうと間違ってはいないのが癪に障る。
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