第19話

「んで、ナキ兄?俺に何をさせたいわけ?」

3人と別れて、ナキ兄と俺は歩き出す。

「あれ、言ってなかったっけ?」

「すっとぼけてるんじゃないんだよね?」

この人がこういう人なのはいつものことだ。晴も毎日毎日よく突っかかる。

「ああ、忘れてた。歩にね、食器を買おうと思って。」

「食器?」

「あの子の荷物に入ってなかったからね。いつまでもお客様用じゃ可哀想だろう?」

「確かに、もともと荷物が少なかったもんな。」

「おそらく、父さんが管理することになった家に置いてきたんだろう。だから俺達兄弟からのプレゼント、ってことで。愛希、女の子に詳しい、んだろう?」

ナキ兄がニヤッと笑う。こんなろくでもないことを吹き込んだのは真冬か、晴か。

「勘弁してくれ…。晴や真冬に比べたら、だ…。歩の趣味なんてわからない。精一杯努力はするが…。」

「晴は歩が気を使えないように魔法のカード持ってきてるけどこっちもいるか?一応兄弟四人で割り勘だけど。ああ、上から多めに出すから心配するな。」

「別に真冬も俺もそこまで詰まっちゃいないけど…。気を使えないようにって?」

「晴に厳命が下りてる。買わない理由が値段なら構わない、買いなさい。でも、目の前で金出したらどうしても気を使わせるだろう?」

「ウチの金使いはおかしい…。俺と真冬には厳しいのに…。」

うちは金は一般的な母子家庭ではありえないレベルで持ってる。人タラシが何人もいて、血に流れているのか、普段の生活に対する金がかからなすぎる上に、母さんが高給取りという訳の分からない家だからだ。

「俺はこう見えても社会人だし、晴は学生だけどちゃんと約束してるし、成人済み。だけどお前と真冬はまだ社会での金の価値を正しくは理解できていない。だからだよ。」

「何度も聞いた。」

母さんは高校までは無償で面倒を見るが、大学以降は条件と懇々とした話し合いを要する。

ナキ兄は弟たちが全員成人するまでは家にいること、晴は卒業後母さんを手伝うことを条件に進学、就職、浪人やらなんやらの費用を持ってもらっている。

したがって家から通えることも条件だった。

それを破る時には納得させられるだけの条件を持ってくること、それが三浦家のルールだ。

「歩に使うことに俺だって異存はねえよ。…歩の趣味はわかんないけどとりあえずカードを使うような店には行かねえから。」

「そうかい?」

「そんな店で買った食器使いたくねえし、使わせたくないわ!」

「…愛希って貧乏性だよね。」

「小市民で悪かったな。…内容言ってくれてたらもっと情報集まったのに…。」

ぶつくさ小声で文句を言ってはみるが、ナキ兄に笑って流さされるのは見えていた。

「あの人しかいないか。ナキ兄、ちょっと電話!」

「構わないが誰とだい?長電話はやめてほしいんだけど…。」

「長電話してくれる相手じゃないよ…。アキだよアキ。」

「アキ…って永峯先生だろう?迷惑かけるなよ…。」

「急に言ったナキ兄が悪い。」

俺と同じ名を持つ、我らが担任。なめられてはいるが慕われていて、晴の友人の幼馴染の兄という親しいのか遠いのかよくわからない関係に位置する人だ。

「もしもし?アキ君?」

ワンコールで繋がる。教師をやるような人ではあるが、怠惰の権化で、いつも午前中の授業を死んだような顔でこなしているあの人にとってはまだ寝起きだろう。それでいて、偉い人の前ではきっちり決めているんだから始末に負えない。

「聞きたいことがあるんだよ~。」

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