第16話

真冬が苦笑いしながら庭の鍵を開けると

「はーちゃん冷たい…。ずっと気づいてなかった?」

「気づいてねえよ。ちゃん付けは止せ、いい年して気味が悪い。」

「じゃあ、晴くん?」

「そういう問題でもない…。」

若干のナキ兄と似たものの考え方をする朔ちゃん(本人がそう呼べというので。)に、晴は弱い。晴が世話焼きなのは、多分この二人のせいだ。

「久しぶり、朔。」

「お久しぶり、なっちゃん!なっくんのほうがいいのかな?」

「別にどちらでもいいよ。」

「うるさいのははーちゃんだけか。あーちゃん、ふうちゃんも久しぶり。」

今までの人生の中で、ほぼ朔ちゃんからしか呼ばれることのない呼称に、そろって苦笑いで返す。この年になって呼ばれるのは気恥ずかしいけれど、この人に言っても無駄なことは身にも染みている。

「朔、何でもいいから自己紹介しろ、歩が戸惑ってる。」

晴がいい加減疲れたように促すと朔ちゃんはくるりと歩のほうを向く。急に振り向かれた歩はびくりと肩を震わせる。

「初めまして。涼子ちゃんの息子、朔です。よろしくね。あっちゃん…は、あーちゃんと混ざるからあーたん?いや、それは気持ち悪いか…。やっぱあっちゃんかな?どう思う?はーちゃん。」

「心底どうでもいいと思ってる。」

晴がその言葉に裏はない、といった表情で朔ちゃんの頭をはたく。

「初めまして…歩です。どうぞよろしくお願いします。」

歩はまだビビっているのがわかる。当たり前といえば当たり前。朔ちゃんは簡単に言ってナキ兄を数倍ぶっ壊したやつだ。

「それより、朔。」

「なあに?なっちゃん。」

「買い物に行きたいんだ。よもぎの面倒見ていてくれないか?」

そう言ってナキ兄は、よもぎを朔ちゃんに差し出す。朔ちゃんは危なげなく受け取って

「お前、よもぎって名前もらったのかー!美味しそうだな?」

「知ってたんです?」

歩が驚いた顔をするけれど、俺達兄弟はなんとなく予想ついていたので、やっぱり、としか思わない。

「うんー。涼子ちゃんが静さん通して志岐さんに頼まれて、それが僕にまで降りてきたから探してきたー。ふうちゃんも平気な子を探してって無理難題だったんだよ?ふうちゃん平気だったでしょ?」

「やっぱり。ありがとね、朔ちゃん。」

「歩、見ればわかると思うけど、こいつ昔から妙に動物に好かれるんだ。」

「ええ、そうみたいですね…。」

「心配はいらないってこった。朔、何なら涼子さんにも母さん連れて一緒にごはん食べよう、って連絡しといてくれるかい?」

「了解。涼子ちゃん喜ぶよ。」

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