第15話

3人そろってなるべく味わわないように、一気に飲み干す。俺達より繊細(らしい)歩には本物の苦行だろう。

飲み終わって目を開くと、真冬は死にかけているし、歩は歩で何とも言えない表情をしている。

「か、体によさそうな…。」

「歩ちゃん、無理せずまずいって言っていいよ。」

何とか否定的ではないコメントをひねくりだした歩に、ナキ兄は苦笑いしながら、キャンディを渡す。

「奈月兄さん、僕にも…。」

「はいはい。愛希もいる?」

その様子を目ざとく見とがめた真冬が、飴をねだる。

「いらねーわけないだろ…。晴、お前は鬼か。」

晴は不本意そうな表情を隠そうともせず

「可愛い弟妹が二日酔いで苦しまないようにしてやったんだろう。感謝こそされても、文句を言われる筋合いはないね。」

「晴さん…。」

歩が昨日よりずいぶん表情が豊かになったのは、昨日のナキ兄の魔法だろうか。

「そういえば、母さんは?」

「今更ですか…愛希君。」

歩は豊かになった表情で、少しばかりの憎まれ口をたたく。

「僕ら兄弟には母さんが家にいないことが普通で、いることが異様なんだ。だから愛希兄さんの言うこともそんなに変じゃないんだ。…ところで母さんは?」

「つまりは、お前も同じってことだな、真冬。」

俺の言葉に歩も小さく笑う。

「朝方、愛希君が起きてくるより前に、涼子さんが迎えに来て仕事に行かれましたよ。」

「つまりはいつも通りだ。」

「母さんは、涼子さんに頼り過ぎじゃないか?」

「今更だろ。ところで歩、何か足りないものとか無いか?今日なら俺も奈月もいるから車出せるし、力仕事要員も情報要員もいるから、何でも買いに行けるぞ?」

母さんから指示が出ていたから、昨日今日は全員が空いていることは伏せておく。休日に遊ぶ相手の一人もいない兄弟だと思われたらどうしよう。

「私のものは大丈夫なんですけど…。よもぎのものが…。」

足元にまとわりつく子猫を見ながら歩はつぶやく。

「そうか、じゃあペットショップか。お昼食べたら行こうか。愛希と真冬もそれで大丈夫かい?」

「よもぎは連れていく?」

慣れたらしい真冬が、よもぎを抱き上げて鳴きまねをしながらナキ兄に聞く。

「ケージで家に置いておいたほうがいいんじゃないかな?連れまわすのも可哀想だし。」

「いや、心配ない…。」

「なんで?」

「ちょうどいいのが来た。」

晴が指す庭に

「朔ちゃん。」

「昼飯をたかりにきたか、歩のことを涼子さんから聞いてきたかどっちかだが、まあいい。歩、本人来てから説明するがあれは俺達のなじみだ。涼子さんの息子だから心配はいらない。ものすごく変な奴ではあるんだが…真冬、開けてやれ。いつにもましてあいつがバカっぽい。」

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