第12話

自分で言っていた通り、歩は俺達四兄弟とは違って、酒にはあまり強くはないようだ。

頬が紅潮したと思ったら、昼間より少しばかり饒舌になり、ゆらゆらして眠ってしまった。

歩が饒舌になるのをいいことに酒をつぎ続けていた悪魔の笑顔を浮かべたナキ兄は、つぶれた歩を眺めている。

「奈月…。」

母親と晴が同じ顔で長男の所業に呆れている。

「彼女もいろいろ抱えているみたいだしね。初日はこれくらいやったほうが、歩ちゃんも眠れるってもんでしょ?」

ナキ兄はケロッとした顔で笑っている。

「そういうのは奈月兄さんが適任だよね。酒が強くて、人当たりがいい。」

「まあ、俺や愛希にはできないよな。」

「僕もたぶん向いてない…。奈月兄さんだから。」

「奈月だけよね。こんな隠れSみたいなのは。」

「心配しなくても、俺と真冬は正々堂々とSだよ。愛希はMだけど。」

「おい晴。」

聞き捨てならない何かを言われているが、否定するのも変な話なので、晴に軽く切れることしかできない。

そんな様子を見ていたナキ兄だが

「母さん、歩ちゃん部屋に運びたいからついてきて。」

「は?」

「年頃の女の子の部屋に、20過ぎた男が無断で堂々と踏み込むわけにはいかないでしょ。」

「…あんたは紳士ね。奈月。この状態で何もないだろうに。」

「この家に来たばっかりの女の子を不安にさせちゃ元も子もないでしょ。」

そう言ってナキ兄は歩をお姫様だっこする。

「うげ…。」

「奈月兄さん…。」

「な?油断ならないだろ?」

弟たちのささやき声に

「仕方がないだろう?起こすのも可哀想だしね。」

と、相変わらず微笑んでいる。母さんは一つため息をついて、

「行くわよ、奈月。」

「はいよ。」

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