第11話

「美味しい…。」

「だよね。晴の料理はとても美味しい。」

晴の時が一番美味しい飯に巡り合えることは間違いない。だが、晴はめんどくさい。

「すっごく手が込んでますね。隠し味に…梅と林檎?ですかね?」

「歩。そのくらいにしとけ。」

「梅と、林檎?」

真冬がくわえたスプーンを眺めながら、首を傾げる。

晴のスイッチが入る前に、とストップをかけるが、時すでに遅し。

「すごいな、よくわかったな、歩。今まで誰一人として気づいてくれなかったのに。」

恨みがましく全員を見回す晴の視線を全員で受け流す。晴は一つため息をついて、嬉しそうに隣の歩の頭を撫でる。

「晴兄さんがデレた…。」

真冬が気持ち悪いものを見る目で晴を見ている。その気持ちはとてもよくわかる。

「奈月、ワインもってきて?」

「了解、あまりきつくないやつがいいよね。」

「わかってるじゃない。」

一番固いリアクションを示していた晴が軟化したのを見て取ったのだろう。母さんがナキ兄と笑っている。

ナキ兄が母さんの趣味であるワインセラーから一本と、グラスを5個運んでくる。

「…成人済みは3人なんだけど。僕と愛希兄さん、それに歩さんも未成年。」

「今日くらいはトクベツよ、愛希、真冬。歩、飲めるかしら?」

「両親が死んだ夜、志岐さんが眠れなかった私を見かねて飲ませてくれましたよ。」

「父さんは、未成年の女の子を捕まえて…。」

父さんも母さんもいくらでも飲む酒豪で、真冬はともかくとして、ナキ兄も晴も一定のラインまではまったく酔わない。

だからと言って父さんの行動は褒められたものでもない。

あの人は不器用なのか、気が利かないだけなのか。

彼女の境遇を忘れていたわけではないが、思い出してしまった以上、微かな沈黙が落ちる。

その沈黙を感じ取ったか、歩は笑って

「そんなに気にしないでください。もう私18ですから。こんないい場所にも来れましたし。」

俺らは黙ってグラスを傾ける。あったことのない歩の両親に祈りを捧げながら。

歩が両親の死に関して持っている感情を、わかることの出来る日が来ることを願って。

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