第10話

「あ、忘れてた。」

ずっと晴が抱いていたせいか、おろした今でも晴の足元にまとわりついている子猫に全員の視線がいく。

奈月はふわりと近寄って、子猫を抱き上げ、歩に近寄り、手渡す。

「え…?」

「母さんというか、父さんからのプレゼントだよ。」

戸惑う歩に、視線でリボンをかけたゲージを示す。

「志岐からよ。…猫は好き?」

確認してなかったのかよ、と思ったけれど歩の嬉しそうな顔に言葉を飲み込む。

「はい!」

「それはよかった。」

真冬がまだ恐る恐る、といった様子で、子猫の頭を撫でる。

「お名前は…。」

「決まってないわ。つけてあげて?」

「いいんですか!?」

「ええ、もちろん。」

この家に来てから初めて快活な様子を見せてくれた。

歩は少し悩んで

「…よもぎ。」

「よもぎ?」

黒猫によもぎとはこれいかに。

「この家の、一員になれるように。四季と書いてよもぎとよめたはずだから。」

それを聞くと、ナキ兄はクスリと笑って

「俺達の名前が母さんが父さんのこと嫌いじゃない証明だよね。父さんの名前が”シキ”だから四人の息子に季節の名をつけるなんて。」

「でも、素直じゃないから漢字だけひねくれて…。」

「うるさい、愛希。」

「また俺だけ殴る!ナキ兄もだろ!」

理不尽に怒りはするが、無駄だろう。

「漢字、春夏秋冬じゃないんですか?」

「それが、僕以外は違うんだよね。母さん、僕の時にはネタが尽きたみたいで…。」

父さんはやるだけのことはやるが、俺達の誰が生まれるときも、家にはいなかった。そういう人なのだ。旅人というか。

「ということは真冬君は、そのままですよね…。他は?」

「大きいに示すの奈に月で奈月。晴れるで晴。愛と希望で愛希。」

「へえ…。」

「歓迎するよ、歩ちゃん、そしてよもぎ。なんせ男所帯だったから不便は多いだろうけれど。」

「ご迷惑をおかけします。」

「うちは、子猫と女子高生一人増えたくらいで迷惑するような家じゃないんだよ。なめんな。」

晴なりの優しさがツンデレになっている。

「大学のことはまたゆっくり考えればいいから。今は美味しいごはんと、暖かい寝床で休めばいいわ。」

「ありがとうございます。」

「今は食え。腹が減ると人間ロクなこと考えない。…食べることは好きか?」

「ええ、とっても。」

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