第9話

「ただいま。」

「ほんとに母さん戻ってきた…。」

「なによ、真冬。戻るって言ったじゃない。」

「母さんがそういう約束を守ったためしがないから。」

「失礼ね。」

「事実でしょ、母さん。」

予告通りの母の帰宅に、真冬がむしろ戸惑っている。俺らの中で一番幼い真冬は、おいていかれることは一番多かった。

「歩のとこ行ってくるわ。」

そう言った母さんだが、

「いや、必要ないみたいね。歩。お疲れ様。」

兄弟揃って後ろを振り向く。全員の視線を浴びた歩は少し戸惑ったような表情をしている。男四人の視線が怖かったのだろう。俺は意図的に目をそらす。

「すみません、眠ってしまっていて…。」

「いいのよ。疲れていたんでしょう?ご飯にしましょう?」

「歩、これお前の?」

俺がスマホを振ると驚いた顔でスカートのポケットをたたいている。

「ありがとうございます…アキ君。」

「愛希でいい。同い年だ。敬語もいらない。俺もお前のこと歩って呼んでるし。」

そう笑って言うと歩は驚いたように目を見開いて

「ありがとう…アキ。」

と笑った。その顔に胸の鼓動がドキリという。

「まあ、急には難しいと思うけど。僕たちも兄と呼べとは言わないし。…な、晴。」

「ああ。好きに呼んでくれ。」

晴は興味なさげに素っ気なく答える。

「ありがとうございます。ナツキさん、ハルさん。…それに真冬君。」

自分だけ君付けされたからか真冬が微妙な表情を浮かべている。

「ごはんにしましょ。」

「静さん。」

「晴の料理は美味しいのよ。少し面倒だけれども。」

「手伝います。」

「当然だ。歩。」

手伝いを申し出た歩に素っ気ない素振りで食器を渡す。

「あと、一つだけいいですか…?」

「どうした?」

「その猫ちゃんは…?」

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