第8話
「うるさいわね、晴…。」
電話をスピーカーにした晴のケータイからは、面倒くさそうな母の声がする。
「うるさくもなるよ!生き物をあんな風に送るなっての!可哀想だろ!」
そう言いながらも晴兄は、抱き上げた子猫を離そうとはしない。
「ちゃんと、相談した結果よ…。安全は確保してあるわ。それに用意したのは志岐よ。私じゃないわ。」
「僕死ぬほどびっくりしたんだけど…。」
真冬は動物が苦手だ。でも、同時に憧れてもいる。
「ああ、ごめん、真冬。黒猫なら平気かな、って。」
「黒猫って不吉の象徴なんだけどね…。」
「それより奈月。歩はどうしてる?」
「眠ってるよ。疲れたんじゃないかな。」
「そう…。」
晴を相変わらず無視して、ナキ兄に話しかける。
「じゃあ、起こさないで上げて。あの子ずっとろくに眠れてなかったみたいだから。」
「そうなの?」
「ええ。志岐からもそう聞いているわ。微睡んでこそいたけれど、眠っているようには見えなかったって。…どうせ愛希あたりが部屋に突入したんでしょう?ヘタレだからなにもしてないだろうけれど。」
「正解だよ。母さん。」
「腑に落ちない。」
経過を語られないとだいぶ違う話になってはいるが、結末としては正解なのが腹立たしい。
「まあ、それでもそんなに深くは眠れないでしょうから…。起きたらその子を渡してあげて頂戴。志岐からのプレゼントだから。」
「父さんも何を考えてるんだ…。」
「さあね?」
真冬と晴が頭を抱えている。
「私も今日は、夕ご飯の時間には戻るから。待っていて頂戴。」
「珍しいね。」
「涼子がうるさいのよ。よろしくね。」
「久しぶりに席が全部埋まるね。」
ナキ兄がニコニコと笑って言う。父さんと母さんが別れて、基本的にはずっと一席空いていたのだ。
「じゃあ、一度切るわね。詳しい話はまた後で。」
「あ!ちょっと待て母さん!」
「またまんまと話をそらされたね。晴兄さん。」
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